看護師と医師事務作業補助者が知っておきたい、検査とCPAP治療の流れ
「バスの運転手をしています。会社の検査で睡眠時無呼吸を指摘され、病院へ行くように言われました」
このような患者さんが、会社から渡された検査結果を持って外来を受診することがあります。
僕の場合は、患者さんを診察したあと、
「まずは簡易検査で」
「PSGを組んでください」
などと医師事務作業補助者へ伝えます。
僕たちの病院では、医師事務作業補助者を「メディカルクラーク」と呼んでいます。
医師が口にするのは、短い言葉です。
その後ろには、検査機器の手配、患者さんへの説明、入院日の調整、結果説明の予約、CPAPを扱う業者との連絡があります。
睡眠時無呼吸症候群の診療は、医師だけでは回りません。
外来で勤務する看護師さんやメディカルクラークが、検査と治療の大まかな流れを知っている。それだけで、患者さんへの案内はずいぶん滑らかになります。
今回は、外来スタッフが知っておきたいところに絞って、睡眠時無呼吸症候群の診療を整理します。
どのような患者さんが外来を受診するのか
睡眠時無呼吸症候群を疑って外来を受診するきっかけは、大きく分けると次の3つです。
「いびきがひどいと家族に言われた」
「昼間、どうしても眠くなってしまう」
「職場の簡易検査で異常を指摘された」
とくにバスやトラックなどの運転を仕事にしている人では、日中の眠気は本人の体調だけの問題ではありません。
事故や周囲の人の安全にも関係します。
そのため、会社の健康管理の一環として睡眠時無呼吸の検査を受け、異常を指摘されて来院する人が少なくありません。
睡眠時無呼吸症候群は、単なる「いびき」ではない
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まったり、浅くなったりする病気です。
多くを占める閉塞性睡眠時無呼吸では、眠っている間に舌や軟口蓋が落ち込み、空気の通り道である上気道が狭くなります。
呼吸が止まると、血液中の酸素濃度が低下します。
身体は呼吸を再開させるために眠りを浅くするため、本人は一晩中眠っているつもりでも、実際には睡眠が細かく分断されています。
その結果、日中の眠気、集中力の低下、熟睡感の欠如などが現れます。
高血圧、心臓病、脳卒中などとも関係するため、単なる「いびきの大きな人」として見過ごさない方がよい病気です。
まず確認したいのは、患者さんが持ってきた検査結果
会社の検査で異常を指摘された患者さんが来院したときは、検査結果の用紙を持参しているか確認します。
患者さん本人は、
「会社の検査で引っ掛かりました」
とだけ話すことがあります。
しかし、医師が次の検査を判断するためには、実際の報告書が必要です。
どのような機器で測定したのか。AHIなどの数値はいくつだったのか。酸素飽和度はどの程度低下していたのか。
検査結果の内容によって、自宅での簡易検査を改めて行う場合もあれば、精密検査へ進む場合もあります。
2026年6月以降は、一定の条件を満たせばPSGを行わずにCPAPの保険適用となる患者さんも増えました。
職場の検査で異常を指摘された人を、すべて自動的に入院PSGへ案内するわけではありません。
検査結果を取り込み、医師の指示を確認する。最初の分かれ道です。
検査には「簡易検査」と「精密検査」がある
睡眠時無呼吸症候群の検査には、大きく分けて2つあります。
自宅で行う簡易検査と、病院などで行う精密検査です。
簡易検査
簡易検査では、病院から貸し出された小型のモニターを自宅で装着し、普段の環境で一晩眠ってもらいます。
呼吸の状態や血液中の酸素飽和度などを記録する検査です。
入院を必要とせず、患者さんの身体的、時間的な負担が比較的小さいことが利点です。
一方、一般的な簡易検査では脳波を測定しません。
そのため、布団に入っていた時間は分かっても、実際に眠っていた時間を正確には判定できないことがあります。
たとえば、検査機器を7時間装着していても、実際に眠っていた時間が5時間だったとします。
簡易検査では装着時間をもとに計算するため、1時間当たりの無呼吸や低呼吸の回数が、実際より少なく見えることがあります。
簡易検査の数値がそれほど高くなくても、症状が強い場合や、臨床的に睡眠時無呼吸症候群が疑わしい場合には、精密検査へ進むことがあります。
精密検査
精密検査は、PSGと呼ばれます。
PSGは「Polysomnography」の略で、日本語では「終夜睡眠ポリグラフ検査」といいます。
脳波、眼球運動、筋電図、心電図、鼻や口の気流、胸部と腹部の動き、酸素飽和度などを測定し、睡眠中の状態を詳しく調べます。
脳波を測定するため、実際に眠っていた時間だけでなく、睡眠の深さや睡眠の分断も評価できます。
胸部や腹部の動きを確認することで、無呼吸が気道の閉塞によるものなのか、呼吸中枢の異常によるものなのかを判断する材料にもなります。
当院では、一泊入院で検査を行います。
夕方に入院し、複数のセンサーを装着して眠り、翌朝に検査を終了して退院する流れです。
患者さんからは、
「これだけ機械を付けて眠れるのでしょうか」
「夜中にトイレへ行けますか」
と聞かれることがあります。
センサーを装着した状態でも、必要に応じてスタッフの介助を受けながらトイレへ行くことは可能です。
外来であらかじめ伝えておくだけでも、患者さんの不安は少し軽くなります。
AHIとは何か
検査結果を見るときに出てくるのが、AHIです。
AHIは「Apnea Hypopnea Index」の略で、日本語では「無呼吸低呼吸指数」といいます。
睡眠1時間当たりに、無呼吸と低呼吸が何回起きたかを示す数字です。
たとえば、AHIが30回/時間であれば、平均すると1時間に30回、呼吸が止まるか浅くなっていることになります。
外来スタッフが診断基準をすべて覚える必要はありません。
ただし、
「AHIが高いほど、睡眠中の呼吸障害が頻繁に起きている」
という意味は知っておくと、患者さんの検査結果を理解しやすくなります。
2026年6月から、CPAPの保険適用が広がった
ここは、今回もっとも更新しておきたいところです。
以前の制度では、睡眠時無呼吸症候群に対してCPAPを保険診療で導入する場合、一般的には次の基準が使われていました。
PSGを行った場合は、AHIが20以上。
PSGを行わない場合は、AHIが40以上。
2026年度の診療報酬改定では、この基準が変更されました。
PSGを行った場合
PSGでAHIが15以上であることに加えて、
日中の強い眠気や起床時の頭痛などがあり、日常生活に支障が出ていること。
PSGで、睡眠の分断や深睡眠の著しい減少などが確認され、CPAPによって睡眠状態が改善すると判断される。
これらの条件を満たす場合、CPAP治療が保険適用となります。
以前のAHI20以上から、AHI15以上へと基準が広がりました。
簡易検査でAHIが30以上の場合
簡易検査でAHIが30以上で、日中の強い眠気や起床時の頭痛などの自覚症状が強く、日常生活に支障が出ている場合には、PSG所見の要件を満たさなくても、CPAP治療の対象となります。
以前は、この基準がAHI40以上でした。
つまり、簡易検査などでAHI30以上となった患者さんでは、症状の要件を満たせば、入院PSGを経ずにCPAP導入へ進める可能性があります。
厚生労働省の通知では、PSGを用いる経路はAHI15以上、強い自覚症状による日常生活への支障、PSG上の睡眠障害という要件が示されています。一方、簡易検査でAHI30以上では、強い自覚症状によって日常生活に支障を来しているという要件を満たせば対象になると定められています。
患者さんへは、
「数値が基準を超えたので、必ずCPAPになります」
と説明するより、
「検査結果と症状を合わせて、医師が治療方法を判断します」
と伝える方が正確です。
この変更で、外来の流れも少し変わる
これまでは、会社の簡易検査で異常を指摘された患者さんに対して、
「次は入院してPSGを行います」
と案内するケースが多くありました。
2026年6月以降は、持参した検査結果がAHI30以上で、症状の要件を満たしている場合には、PSGを行わずにCPAP導入へ進む可能性があります。
反対に、AHIが15から29の場合には、症状だけでなく、PSGによる睡眠状態の評価が必要になります。
外来スタッフとしては、患者さんの検査結果を見ただけで次の流れを断定せず、
「医師が結果と症状を確認して、簡易検査、PSG、CPAP導入のどこへ進むかを判断します」
と説明するのが自然です。
検査の基準が変われば、予約の取り方や患者さんへの説明も変わります。
制度改定は医事課だけの話ではなく、外来の動線にも静かに影響してきます。
CPAP治療とは
CPAPは「Continuous Positive Airway Pressure」の略で、日本語では「持続陽圧呼吸療法」といいます。
眠るときに鼻や口へマスクを装着し、機械から空気を送り込みます。
その空気圧によって気道を内側から広げ、睡眠中に気道が閉塞するのを防ぐ治療です。
初めてCPAPの写真を見た患者さんは、
「このマスクを毎晩付けるのですか」
「苦しくありませんか」
と不安になることがあります。
導入したばかりの頃は、マスクの違和感、空気漏れ、鼻や口の乾燥などを感じる人もいます。
マスクの種類やサイズ、空気圧などを調整しながら、徐々に慣れていく患者さんが多く見られます。
機器やマスクの準備は、医療機関だけでなく、CPAPを扱う専門業者が支援します。
外来スタッフがすべての機器操作を説明する必要はありません。
患者さんが困ったときに、病院へ連絡するのか、業者へ相談するのか。その窓口を整理して伝えることの方が役に立ちます。
CPAPは、機械を渡して終わりではない
CPAPを開始した後も、定期的な通院が必要です。
機器には、使用した日数や時間、マスクからの空気漏れ、CPAP装着中のAHIなどが記録されています。
以前は、機器の中に入っているSDカードを患者さんに持参してもらう方法が中心でした。
現在は、通信機能を利用して医療機関や業者が遠隔でデータを確認できる機器も増えています。
診察では、CPAP装着中のAHIだけではなく、実際に何日、何時間使用できているかを確認します。
AHIが大きく改善していても、月に数回しか使っていなければ、十分な治療とはいえません。
マスクが合わないのか。鼻が詰まるのか。空気圧がつらいのか。出張が多く、持ち運べないのか。
使えていない理由を聞き、調整できるところを探します。
2026年度の診療報酬改定では、CPAP導入から3か月を過ぎた患者さんについて、直近3か月のすべての月で1日平均使用時間が1時間未満の場合、原則として指導管理料を算定しない取扱いも加わりました。
CPAPを処方しているだけではなく、実際に使用できているかを見る方向へ、制度も動いています。
外来スタッフが確認しておきたいこと
看護師さんや医師事務作業補助者が、睡眠時無呼吸症候群を診断する必要はありません。
それでも、次の流れを理解しておくと、患者さんへの案内がしやすくなります。
(1)職場や他院で受けた検査結果を持参しているか
(2)いびき、日中の眠気、起床時頭痛などの症状があるか
(3)医師の指示が簡易検査なのか、PSGなのか、CPAP導入なのか
(4)簡易検査機器をいつ受け取り、いつ返却するのか
(5)PSGでは一泊入院が必要なのか
(6)結果説明の外来はいつになるのか
(7)CPAP導入後の業者連絡と受診方法をどう案内するのか
(8)患者さんが実際にCPAPを使用できているか
費用について尋ねられることもあります。
検査費用やCPAPの自己負担額は、自己負担割合、検査内容、入院料、個室料、医療機関の運用などによって変わります。
記憶している金額をそのまま伝えるより、院内で共有されている最新の案内を確認して説明する方が安全です。
医師の短い言葉を、実際の医療に変える
診察室で医師が口にするのは、
「簡易検査でお願いします」
「PSGを組んでください」
「この結果なら、CPAP導入へ進めましょう」
という短い言葉です。
けれど、その一言の後ろには、患者さんへの説明、検査機器の貸し出し、入院日の調整、専門業者との連絡、結果説明の予約があります。
会社から渡された検査結果を手に、少し不安そうに受付へ来たバスの運転手さん。
その人が次に何をするのかを、外来スタッフが落ち着いて説明できる。
それだけでも、診療は静かに前へ進みます。
睡眠時無呼吸症候群の診療を支えているのは、医師の診断だけではありません。
外来で患者さんを迎え、検査につなぎ、治療が続くように支える人たちの理解です。
医師が短い言葉で出した指示を、実際の医療へと変えている。
それが、看護師さんとメディカルクラークなのだと思います。
こあら先生のひとりごと
市の広報誌には、金額も書きました。
【参考文献】
牧之原市.「睡眠時無呼吸症候群とCPAP治療について」『広報まきのはら』2026年6月号,vol.297,19頁.
https://www.city.makinohara.shizuoka.jp/site/koho/61978.html