※この記事で紹介する金額は、2023年7月29日時点の診療報酬をもとにしています。現在の診療報酬とは異なる可能性がありますので、ご了承ください。

病院の外来で働いていると、まれに患者さんから医療行為の値段を聞かれることがあります。

「この血液検査はいくらですか」

「心エコーをすると、どのくらいかかりますか」

「今日の診察は、全部でいくらになりますか」

正直に言えば、医師でもすぐには答えられません。

医療の値段は、診療報酬という仕組みのなかで細かく決められています。検査そのものの料金だけではなく、検査結果を判断する料金や、検査を管理するための加算なども含まれるからです。

今回は、ある内科外来の診療を例にして、医療費の中身を見てみます。

ある日の内科外来

85歳の男性です。

300床規模の総合病院の一般内科外来に、2か月に1回通院しています。

この日は予定どおり、

・胸部レントゲン
・12誘導心電図
・血液検査

を受けたあと、医師の診察を受けました。

前回と同じ内服薬8種類を56日分処方され、2か月後の予約を取って帰宅しました。薬は院外処方です。

それでは、この日の病院での医療費を順番に見てみます。

再診料 740円

まずは再診料です。この病院は300床なので、外来診療料とも言います。

これは、外来で医師の診察を受ける際の基本料金に近いものです。

今回のケースでは740円でした。

診察室で医師と話した時間だけに対して料金が発生している、というよりも、外来診療を行うための基本的な費用と考えると分かりやすいと思います。

胸部レントゲン 2100円

胸部レントゲンは、撮影料や画像の管理に関する費用を含めて2100円でした。

今回は電子画像管理加算を含んだ金額です。

現在では、多くの病院がレントゲン画像をフィルムではなく、電子データとして保存しています。

12誘導心電図 1300円

一般的な12誘導心電図は1300円です。

胸や手足に電極を装着して記録する、外来でよく行われる心電図検査です。

検査時間は比較的短いのですが、心筋梗塞、不整脈、心肥大などを考えるうえで、多くの情報を得ることができます。

採血料 370円

血液を採取する行為そのものにも、採血料があります。

今回の静脈採血では370円でした。

これは血液検査の料金とは別です。

「血を採る料金」と「採った血液を調べる料金」は、それぞれ分けて計算されています。

血液検査料 9430円

今回、最も金額が大きかったのは血液検査です。

合計9430円でした。

内訳は、次のようになっています。

・検査結果を当日に説明するための加算 500円
・一般的な血液検査 1060円
・凝固検査とHbA1c 960円
・フェリチン 1050円
・BNP 1330円
・各検査の判断料 4130円
・検体検査管理加算 400円

合計すると、9430円になります。

ここで注目したいのは、検査試薬の費用だけではないという点です。

血液検査には、検体を測定する費用に加えて、医師が結果を判断するための料金や、病院が検査の精度を管理するための費用も含まれています。

患者さんから見ると「採血1回」ですが、その裏側では複数の項目が積み重なっているのです。

処方箋料 770円

今回は院外処方です。

病院が処方箋を発行する費用として、一般名処方加算を含めて770円でした。

薬そのものの料金や、薬局で薬剤師が調剤する費用は、この770円には含まれていません。

それらは院外薬局で別に計算されます。

病院での医療費は1万4710円

ここまでを合計します。

・再診料 740円
・胸部レントゲン 2100円
・12誘導心電図 1300円
・採血料 370円
・血液検査料 9430円
・処方箋料 770円

合計は1万4710円です。

これが、この日に病院で行われた診療に対する医療費です。

ここに、院外薬局で計算される薬剤料や調剤に関する費用が加わります。

医療費と自己負担額は違う

1万4710円という金額を、患者さんが全額支払うわけではありません。

公的医療保険を利用している場合、患者さんが窓口で支払うのは、原則として医療費の1割から3割です。

今回の患者さんは1割負担と仮定しています。

そのため、病院での自己負担額は概算で約1470円です。これに、院外薬局での自己負担額が加わります。

ただし、同じ85歳であっても、所得などによって自己負担割合は異なります。「85歳なら全員1割負担」という意味ではありません。

今回の設定では、

「病院での医療費1万4710円と、院外薬局で発生する医療費の合計」

に対して、患者さんが1割を負担することになります。

病院側から見れば診療報酬、患者さんから見れば医療費

病院や薬局が医療行為の対価として受け取るものを「診療報酬」と呼びます。

一方、患者さんや保険者の側から見ると「医療費」です。

患者さんが窓口で支払っているのは、その医療費の一部です。残りは保険者などから病院や薬局に支払われています。

窓口で1500円程度しか支払っていなくても、実際には1万円を超える医療が提供されていることがあります。

外来に料金表があると助かる

診療報酬は非常に細かく、医師がすべての金額を覚えることは現実的ではありません。

しかも、診療報酬は原則として2年に1回改定されます。

僕は、外来に簡単な料金表があると助かると思っています。

たとえば、

「心エコーはいくらか」

「胃カメラはいくらか」

「睡眠時無呼吸症候群の精密検査入院はいくらくらいか」

このような、患者さんから比較的よく聞かれる検査や入院について、概算を確認できる一覧表です。

僕たちの病院の外来には、医療行為の料金を確認できる一覧表が置いてあります。

正確な自己負担額は、検査内容、保険の種類、年齢、所得区分、各種加算などによって変わります。それでも、おおよその金額が分かれば、患者さんへの説明はかなりしやすくなります。

秘書ユナのコメント

医療者は、検査の必要性や医学的な意味については詳しく説明します。

一方で、その検査にいくらかかるのかについては、患者さんから聞かれて初めて意識することも少なくありません。

医療費を知ることは、検査を控えるためではありません。

医療というサービスが、どのような仕組みと費用で成り立っているのかを知ること。その入口になるテーマだと思います。

こあら先生のひとりごと

自分が売っているものの値段は、ビジネスマンとして知っておくべきだと、僕は考えています。

もちろん、だいたいの値段になりますけど。