腎性貧血の治療には、飲み薬も注射薬もあります。

ダーブロックは飲み薬、ミルセラは注射薬。僕が主に診ている、まだ透析を受けていない患者さんでは、どちらを選ぶのがよいのでしょうか。

今回は、僕の外来での感覚と、2026年時点の資料を合わせて考えてみます。

まずはミルセラなどのESAを考える

ミルセラは、ESA(赤血球造血刺激因子製剤)という薬です。一方、ダーブロックはHIF-PH阻害薬という別の種類の薬で、体内のエリスロポエチン産生を促します(参考文献4、5)。

日本人の非透析患者さんを対象とした比較試験では、Hb(ヘモグロビン)の改善・維持について、ダーブロックのミルセラに対する非劣性が示されています。飲み薬だから効き目が弱い、というわけではありません(参考文献2)。

それでも、国際的な腎臓病のガイドラインであるKDIGO2026では、鉄欠乏などに対応したうえで、まずHIF-PH阻害薬よりESAを使うことを提案しています(推奨度2D)。背景には、ESAの効果とリスクについて蓄積がある一方、HIF-PH阻害薬の長期的な安全性には、まだ不確実性が残ることがあります(参考文献1、S50、Recommendation 3.1.1および直下の解説)。

僕自身も、今のところはミルセラを基本に考えています。

外来では、飲み薬にも利点がある

注射が苦手な患者さんにとって、内服で治療できることには意味があります。患者さんが飲み薬を希望することも、治療選択に反映してよい要素です。

ただ、「飲み薬なら通院が減る」とは限りません。

ダーブロックは、開始後にHbが安定するまでは2週に1回程度、その後も4週に1回程度の確認が必要です。ミルセラの維持投与も通常4週に1回なので、診察や採血に合わせて注射を受けている方では、受診回数が変わらないこともあります(参考文献4、5)。

「注射を避けられること」と「通院を減らせること」は、分けて考えたいところです。

血液透析では、注射の負担が違う

血液透析患者さんへのミルセラは、皮下注射ではなく静脈内投与です(参考文献5)。

元のInstagram投稿でも触れましたが、透析回路から投与できるため、この薬のために別の皮下注射を受けるわけではありません。

この状況なら、「飲み薬だから楽」という利点は、非透析の外来ほど大きくないと僕は思います。

ダーブロックも、透析患者さんを対象とした大規模試験で、Hbの改善と主要心血管イベントについてESAに対する非劣性が示されています。ただし、比較薬はミルセラではなく、エポエチン アルファなどです。生命予後などでESAを上回ったことを示す試験でもありません(参考文献3)。

注射で安定している患者さんに、内服という理由だけで変更を勧める必要はなさそうです。

ESAへの反応が乏しい場合などには別の検討が必要ですが、その前に鉄欠乏や炎症、出血などを確認することになります。

「警告」は軽く扱わない。でも、有無だけで比べない

ダーブロックの電子添文には、赤い「警告」の欄があります。

脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓など、死亡に至るおそれのある重篤な血栓塞栓症についての警告です。これは、軽く扱ってよい注意ではありません(参考文献4)。

正直にいうと、僕はこういう記載を見ると、少し身構えます。

もちろん、ミルセラに同じ警告欄がないからといって、血栓症などのリスクがないわけではありません(参考文献5)。比較するのは赤い枠の有無ではなく、その中身ではあります。

ちなみに、ダーブロックでは、血栓症に加え、心不全、悪性腫瘍、一部の眼疾患などにも注意が必要です。日本腎臓学会の2020年の文書では、投与前の悪性腫瘍の精査も推奨されています(参考文献4、6)。

ただし、これは、発がんが確認されたという意味ではありません。同じ文書では、当時、悪性腫瘍の発生を増やす証拠はない一方、すでにあるがんの進行に影響する可能性は否定できない、と説明されています(参考文献6)。

結局のところ、その患者さんにとって、内服にする利点がどのくらいあるのか。その利点と、背景にあるリスクを並べて考えることになります。

情報は増えている。僕の判断も更新していく

2026年7月には、日本の1634人を安全性解析の対象としたダーブロックの使用成績調査で、新たな安全性上の懸念は認められなかったと報告されています(参考文献7)。

安心材料の一つです。ただし、比較群のない観察研究であり、ミルセラとの長期的な安全性の優劣まで分かったわけではありません。

今の僕は、ミルセラを基本に考えます。

でも、内服にすることで患者さんの負担が明らかに減るなら、ダーブロックを最初から除外するつもりもありません。

秘書ユナのコメント

こあら先生は、職員健診とかワクチン接種とか、注射をかなり嫌がるタイプですよね。
それなのに、患者さんにはミルセラを使っていることが多い。

こあら先生のひとりごと

まあ、今回書いたような理由があるのです。
もちろん、ダーブロックも処方していますよ。

参考文献

1.KDIGO Anemia Work Group.KDIGO 2026 Clinical Practice Guideline for the Management of Anemia in Chronic Kidney Disease (CKD).Kidney International.2026;109(Suppl 1S):S1–S99.
ガイドライン本文(KDIGO)
(最終閲覧日:2026年9月12日)

2.Nangaku M,ほか.Daprodustat Compared with Epoetin Beta Pegol for Anemia in Japanese Patients Not on Dialysis: A 52-Week Randomized Open-Label Phase 3 Trial.American Journal of Nephrology.2021;52(1):26–35.doi:10.1159/000513103.
論文はこちら(PubMed)
(最終閲覧日:2026年9月12日)

3.Singh AK,ほか.Daprodustat for the Treatment of Anemia in Patients Undergoing Dialysis.New England Journal of Medicine.2021;385(25):2325–2335.doi:10.1056/NEJMoa2113379.
論文はこちら(PubMed)
(最終閲覧日:2026年9月12日)

4.グラクソ・スミスクライン株式会社.ダーブロック錠 電子添文.2026年2月改訂、第5版.
電子添文はこちら(PMDA)
(最終閲覧日:2026年9月12日)

5.中外製薬株式会社.ミルセラ注シリンジ 電子添文.2023年4月改訂、第2版.
電子添文はこちら(PMDA)
(最終閲覧日:2026年9月12日)

6.日本腎臓学会.HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation.2020年9月29日版.日本腎臓学会誌.2020;62(7):711–716.
資料はこちら(日本腎臓学会)
(最終閲覧日:2026年9月12日)

7.Akizawa T,ほか.Safety of Daprodustat for the Treatment of Chronic Kidney Disease Anemia: Final Analysis of a Multicenter Postmarketing Surveillance Study in Japan.Therapeutic Apheresis and Dialysis.2026年7月6日オンライン公開.doi:10.1002/1744-9987.70182.
論文はこちら(Wiley)
(最終閲覧日:2026年9月12日)