病棟で患者さんの体温が上がると、氷枕や保冷剤を使ってクーリングを行うことがあります。

首や脇の下、鼠径部などに保冷剤を当てる。昔からよく行われてきた看護ケアです。

でも、体温が高い患者さんを見たときに、反射的に冷やせばよいのでしょうか。

熱中症の患者さんと、肺炎の患者さん。どちらも体温は高くなりますが、体のなかで起きていることは同じではありません。

クーリングも医療行為です。

「熱があるから冷やす」のではなく、なぜ体温が上がっているのかを考えてから行う必要があると思うのです。

「高体温」と「発熱」は違う

体温が高くなる状態は、大きく「高体温」と「発熱」に分けて考えると分かりやすくなります。

高体温とは、体温調節中枢が設定している温度を超えて、体温が上昇してしまった状態です。

代表例が熱中症。

暑い環境に長時間さらされると、発汗や皮膚血流の増加だけでは熱を逃がせなくなります。体温調節の仕組みが、外から入ってくる熱に負けてしまうわけです。

一方、感染症による発熱では、体温調節中枢が意図的に設定温度を上げています。

肺炎などの感染症が起きると、炎症性サイトカインやプロスタグランジンなどを介して、脳の体温調節中枢が「体温を上げよう」とします。

この2つは、体温計で測った数字が同じでも、中身が違います。

熱中症の高体温は、外から冷やす

熱中症では、体に熱がたまっています。

体温調節中枢が体温を高く設定しているわけではありません。体が熱を逃がす能力を超えて、体温が上がってしまっている状態です。

したがって、治療は外から熱を取り除くことになります。

衣服を脱がせる。体に水をかけて風を送る。可能であれば、冷たい水に体を漬ける。

方法は患者さんの状態や医療現場によって異なりますが、積極的なクーリングが治療の中心です。過去のInstagram投稿では、熱中症による高体温について「冷やさないとやばいよ」と表現しました。やや強い言い方ですが、重症熱中症では、まさにそのくらいの切迫感があります。

一方、解熱薬は基本的に効きません。

解熱薬は、体温調節中枢が設定した温度を下げる薬です。熱中症では、体温調節中枢が設定温度を上げたために体温が高くなっているわけではないからです。

熱中症に対しては、解熱薬よりも、まず外から冷やす。

ここは感染症による発熱との大きな違いです。

感染症の発熱は、体が体温を上げようとしている

肺炎や尿路感染症などでは、体温調節中枢の設定温度が上がっています。

例えば、普段は37℃前後に設定されていた体温が、感染症によって39℃に設定されたとします。

このとき患者さんの体温が37℃であれば、体は「寒い」と判断します。

悪寒が起こり、手足の血管を収縮させ、筋肉を震わせて熱を作ろうとするでしょう。患者さんが「寒い、寒い」と言って布団を欲しがるのは、このためです。

この状態で保冷剤を当てると、体はさらに寒いと判断します。

外から冷やされても、体は熱を作り続けます。患者さんは寒気や震えを感じ、苦痛が強くなるかもしれません。

感染症による発熱を下げたいのであれば、体温調節中枢の設定温度を下げる解熱薬のほうが、理屈に合っています。過去のInstagram投稿でも、感染症では体が体温を上げようとしているため、単純に冷やしても熱は下がりにくいと説明しました。

感染症では、クーリングをしてはいけないのか

感染症による発熱に対して、クーリングを一切してはいけないという話ではありません。

冷たい枕を気持ちよいと感じる患者さんもいます。

額に冷たいタオルを置いてもらうことで、安心する方もいるでしょう。看護師さんに気にかけてもらっていること自体が、患者さんの苦痛を和らげる場合もあります。

つまり、感染症に対するクーリングの主な目的は、「体温を正常値まで下げること」ではなく、「患者さんを楽にすること」と考えるのが自然です。

患者さんが暑がっており、冷やすと気持ちよいのであれば行う。

悪寒があり、寒がっている患者さんに対しては、無理に冷やさない。

体温計の数字ではなく、患者さんの反応を見るということです。

感染症の発熱に「3点クーリング」は必要か

首、脇の下、鼠径部には比較的太い血管が通っています。そのため、これらの部位を冷やせば効率よく体温を下げられる、という考え方があります。

いわゆる「3点クーリング」です。

ただ、感染症による発熱では、体温調節中枢が体温を上げようとしています。保冷剤を数か所に当てたとしても、設定温度そのものは変わりません。

体温が実際に下がるほど強く冷却するのであれば、患者さんはかなり寒い思いをしている可能性があります。

保冷剤を皮膚に直接当てたり、長時間同じ場所に置いたりすれば、凍傷や皮膚障害の危険もあります。

意識障害がある患者さんでは、自分から「冷たすぎる」「痛い」と伝えられません。

中枢性発熱は、どのように考えるか

過去のInstagram投稿には、次の質問をいただきました。

「中枢性の熱に対しては、どのように考えたらよいでしょうか」

中枢性発熱とは、脳卒中や頭部外傷などによって体温調節に関係する中枢が障害され、体温が上昇する状態です。

感染症による発熱との区別が難しいことも少なくありません。

脳卒中の患者さんが発熱した場合、まず肺炎や尿路感染症、カテーテル関連感染症などを調べます。しかし、検査をしても感染源が見つからず、脳卒中そのものに伴う体温上昇と考えざるを得ないことがあります。

『脳卒中治療ガイドライン2021』では、脳卒中急性期の体温上昇に対し、原因に応じた治療とともに、解熱薬やクーリングによって体温を下げることは妥当であるとされています。推奨度はB、エビデンスレベルは中です。

脳卒中急性期の高体温は、脳組織にとって好ましい状態とはいえません。

その体温上昇が中枢性なのか、感染症によるものなのか、すぐには判断できない場合もあります。そのような場面では、原因検索と治療を続けながら、解熱薬やクーリングによって体温を下げる対応は妥当だと思います。

前提・分析・結論

前提:体温上昇には、熱中症による「高体温」、感染症による「発熱」、脳卒中などに伴う「中枢性発熱」があり、同じ体温でも仕組みは異なります。

分析:熱中症では積極的なクーリングが治療になりますが、感染症では患者さんの苦痛緩和が主目的となり、中枢性発熱が疑われる場合は原因検索と並行して解熱薬やクーリングを検討します。

結論:クーリングは「熱があるから行う」のではなく、体温上昇の原因、患者さんのつらさ、冷却による利益と不利益を評価して選ぶ医療行為です。

こあら先生のひとりごと

クーリングが、自分の自己満足になっていないか、常に考えたいと思います。