入院患者さんを受け持ったとき、医師が最初にやるべき仕事は何でしょうか。

診断を考えること。
治療方針を立てること。
家族に説明すること。

もちろん、どれも大切です。

ただ、病棟全体の流れを考えると、最初に手をつけたい仕事があります。
それが、入院時オーダーです。

私は、入院時のオーダーはできるだけ早く入力するようにしています。理由は単純です。医師の入力が遅れると、その後ろにいる看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、医事課、地域連携室の仕事が止まってしまうからです。

入院時オーダーは、医師だけの仕事に見えて、実際には病棟全体の仕事の入口です。

入院時オーダーは、診療のスタートボタンである

電子カルテ上では、入院時オーダーはただの入力作業に見えるかもしれません。

でも、現場では違います。

点滴が入っていなければ、看護師は動きにくい。
食事指示がなければ、患者さんは食べられない。
リハビリのオーダーがなければ、リハビリスタッフは評価に入れない。
紹介状の返事が遅れれば、紹介元の先生は患者さんがどうなったのか分からない。

つまり、医師の入力が止まると、病院の中の小さな渋滞が起こります。

だから私は、入院時オーダーを「自分の仕事」ではなく、「次の人に仕事を渡すための仕事」と考えています。

チェック項目を作っておく

入院時オーダーを早く入力するには、気合いだけでは足りません。

毎回、頭の中で思い出しながら入力していると、どうしても抜けます。忙しい日ほど抜けます。夜間入院、外来の合間、救急対応の後であればなおさらです。

そのため、私は電子カルテの医師セット内に「入院時チェック項目」を作っています。

内容は、だいたい次のようなものです。

(1)点滴入力
(2)入院時指示
(3)食事チェック
(4)条件付き指示
(5)入院診療計画書
(6)リハビリオーダー
(7)紹介状の返事

この順番で見ながら入力していくと、速くなります。
そして、抜けにくくなります。

大事なのは、完璧なチェックリストを作ることではありません。自分がいつも忘れそうになることを、先に電子カルテの中に置いておくことです。

点滴は、曜日でまとめて入力する

点滴は、毎日その都度入力していると忘れやすいオーダーです。

私は、毎週土曜日に翌週水曜日までの点滴を全員分入力し、毎週水曜日に土曜日までの点滴を全員分入力する、という形にしています。

もちろん、点滴の変更や終了があれば、その都度修正します。

この「土曜・水曜」のリズムを作ると、点滴入力忘れがかなり減ります。毎朝、今日は誰の点滴が切れるかと考え続けるより、曜日で管理した方が現場には合っています。

医師の記憶力に頼る運用は、忙しくなると崩れます。
仕組みにしておいた方が安全です。

入院時指示では、細かく書きすぎない

入院時指示では、内服薬をどうするか、目標SpO2、酸素投与の方針などを書いておきます。

持参薬が多すぎる場合や、服薬内容がバラバラで分かりにくい場合は、いったん当院から定期処方として整理した方がよいこともあります。

一方で、すべてを医師が細かく入力しすぎる必要はありません。

バイタル4検。
体重測定週2回。
そういう細かな運用は、病棟の看護師さんに任せた方が自然な場面も多いです。

医師が全部を抱え込むと、かえって現場が硬くなります。
医師が決めるべきことと、病棟に任せることを分ける。ここは意外と大切です。

「とりあえず絶食」をそのままにしない

夜間に入院した患者さんでは、「とりあえず絶食」になっていることがあります。

夜間の担当医としては、まず安全側に倒す。これはよく分かります。
ただ、その指示が翌日以降もそのまま残ると、患者さんにとっては不利益になることがあります。

特に高齢者では、食べること自体がリハビリであり、生活の刺激でもあります。

もちろん、誤嚥リスクや病態によっては絶食が必要です。
でも、食べられそうなら早めに診察して、食事を出す。

超高齢者の場合、食べられるかどうかは、実際に食べてもらわないと分からないこともあります。ベッド上で「食べられますか」と聞くだけでは、判断しきれません。

絶食は、便利な指示です。
だからこそ、漫然と続けないようにしたいところです。

条件付き指示は、夜間の安心を作る

入院時には、条件付き指示もある程度入れておきます。

たとえば、発熱時の解熱薬、便秘時の下剤、不眠時の薬、せん妄時の対応、湿布や軟膏などです。

こうした指示が入っていると、夜間や休日に看護師さんが動きやすくなります。
患者さんにとっても、不要な待ち時間が減ります。

もちろん、何でもかんでも条件付き指示に入れればよいわけではありません。せん妄、不眠、疼痛、便秘などは、患者さんごとに注意点が違います。

それでも、よく使う指示を最初から整えておくと、病棟の負担は確実に減ります。

入院診療計画書は、医師が先に書く

入院診療計画書は、患者さんに渡す「計画書」です。

医師、看護師、リハビリなど、多職種で1枚の紙に記載して患者さんへ渡す書類です。だから、医師欄が空いたままだと、他職種の仕事も止まります。

医師は、誰よりも先に書いた方がよいです。

肺炎なら「必要に応じて胸部レントゲン検査や血液検査を行います」。
検査日程が決まっているなら「10月10日(火)胃カメラ検査」。

このくらいでよいのです。

立派な文章を書こうとして後回しにするより、患者さんとスタッフが次に進める内容を早く書く。ここでも、仕事を止めないことが大切です。

リハビリは、かなり早めに考える

私は、リハビリはかなり広めにオーダーしています。

リハビリそのものが大切なのはもちろんですが、それ以外の意味もあります。

患者さんの刺激になる。
病棟以外の観察者の目が増える。
退院後の生活を早めに考えられる。
廃用の進行を防ぎやすい。

特に高齢者の入院では、病気そのものがよくなっても、入院中に動けなくなることがあります。これは本当にもったいない。

入院したら、治療だけではなく、退院する力をどう守るかを同時に考える。
その入口がリハビリオーダーだと思っています。

紹介状の返事は、最速で出す

紹介元の先生は、患者さんがどうなったかを気にしています。

入院したのか。
診断は何だったのか。
検査では何が分かったのか。
今後どう治療するのか。

だから、紹介状の返事はできるだけ早く書きます。

「入院しました」だけでは、少し足りません。診断名を書き、必要な検査結果も同封する。そこまで書くと、紹介元の先生にとって意味のある返事になります。

これは事務的な返書ではなく、地域の先生との信頼関係を作る仕事です。

早い返事は、それだけで病院の印象を変えます。

自分のところで仕事を止めない

入院時オーダーは、医師にとってはたくさんある仕事の一つです。

でも、病棟全体から見ると、かなり上流にある仕事です。
ここが遅れると、下流の仕事が全部遅れます。

点滴入力。
入院時指示。
食事チェック。
条件付き指示。
入院診療計画書。
リハビリオーダー。
紹介状の返事。

これらを早めに整えるだけで、病棟の流れはかなり変わります。

医師がすべてを完璧にやる必要はありません。
ただ、自分のところで仕事を止めない。

入院時オーダーの本質は、そこにあると思います。

秘書ユナのコメント

この話は、単なる電子カルテ入力のコツではなく、病院の仕事の流れをどう見るかという話だと思います。

医師は、診断や治療方針のような「考える仕事」に意識が向きがちです。もちろんそれは中心業務です。

ただ、病棟医療はチームで動いています。医師の小さな遅れが、看護師、薬剤師、リハビリ、地域連携室の動きを止めることがあります。

入院時オーダーを早く入れるという行為は、「自分の仕事を早く終わらせる」ことではありません。次の人が動ける状態を作ることです。

そこに、病棟運営の感覚が表れます。

前提・分析・結論

前提:入院時オーダーは、医師だけの入力作業ではなく、看護師・薬剤師・リハビリ・地域連携室など、病棟全体の仕事を動かす入口である。

分析:医師のオーダー入力が遅れると、点滴、食事、リハビリ、入院診療計画書、紹介状の返事まで後ろの仕事が止まり、患者さんにもスタッフにも小さな不利益が積み重なる。

結論:入院時オーダーは、完璧に整えてからではなく、次の人が動ける形でだれよりも早く入力し、自分のところで仕事を止めないことが大切である。

こあら先生のひとりごと

自分だけで終わる仕事ってあんまりないですよ。

レセプトチェック・在宅酸素の書類・退院サマリー・病院広報誌の原稿などでも、自分のところで仕事を止めないように気をつけています。

粗大ごみをリサイクルセンターに持っていくという仕事も、僕のところで止めるとまずいです。

入院時オーダーも同じですね。

自分のところで仕事を止めない。

地味ですが、病院でも家庭でも、けっこう大事な感覚だと思います。