誤嚥性肺炎で入院したパーキンソン病の患者さんが、今日は内服できない。
この場面、意外と緊張します。

怖いのは、肺炎そのものだけではありません。
抗パーキンソン病薬が急に止まると、動きが落ちて離床が進まなくなりますし、悪性症候群も頭に置かなければいけません。 

パーキンソン病では、嚥下障害は珍しくありません。
嚥下障害は誤嚥性肺炎につながる重要な問題として扱われています。だから、誤嚥性肺炎で入院した時点で、「抗菌薬を入れる」だけでは足りないことがあります。普段飲めていた薬をどうつなぐか。そこまで見て、やっと全体像になります。

なぜ中断が危ないのか

経口摂取が難しいときでも、可能な限り抗パーキンソン病薬を継続して症状悪化や合併症を予防する必要があります。中断で問題になるのは、単に「動きが悪くなる」だけではありません。パーキンソニズムの悪化や悪性症候群を避ける意味があります。

ここは、病棟でうっかり見落としやすいところです。
誤嚥性肺炎で絶食になった瞬間、抗菌薬や輸液には注意が向きます。でも、もともと飲んでいたドパミン系の薬が止まると、離床、痰の喀出、リハビリ、食事再開、全部が鈍ります。肺炎の治り方そのものに影響してくる。

判断の軸のひとつは L-ドパ換算

では、何を基準に代替を考えるのか。
そこで出てくるのが、L-ドパ換算です。

これは、ふだんの抗パーキンソン病薬を、どれくらいのレボドパ量に相当するかで見直す考え方です。
ただし、ここで大事なのは、L-ドパ換算は絶対の正解ではなく、あくまで目安だということです。以下に示す学会ガイドラインの資料でも、統一基準があるわけではなく、患者の症状に応じて調整する、と明記されています。

パーキンソン病診療ガイドライン2018がインターネットで公開されているので見てみましょう。「第Ⅰ編 抗パーキンソン病薬, 外科手術, リハビリテーションの有効性と安全性」の「資料」をクリックして、PDFの24ページを見て下さい。

例えば、レキップ錠 8mg/日を内服しているとしましょう。一般名は、ロピニロールです。表1によると、レキップ8mg=L-ドパ 160mg というのが、ひとつの目安になります。

参考文献
日本神経学会(監修)『パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
最終閲覧日:2026年4月22日

架空の症例で考える

例えば、80歳男性。
ネオドパストン配合錠L 400mg/日と、レキップ錠 8mg/日が処方されているとします。

ネオドパストン400mgはレボドパ400mg相当、レキップ8mgはレボドパ160mg相当として、レボドパ換算1日量(levodopa equivalent daily dose,LEDD)560mg/日と計算します。

この560mg/日という数字は、あくまで普段の治療強度を見積もるための目安です。

ガイドラインでは、L-ドパ/DCI配合剤100mgにつきL-ドパ50〜100mg程度の静脈内投与がひとつの参考とされていますが、静脈内投与への切り替えについて、正確な換算式が確立しているわけではありません

実際には、切り替え直前までの内服内容、症状、副作用の出方を見ながら、少なめから慎重に調整していくことになります。

まとめ


ひとつ目。パーキンソン病の薬を、入院のどさくさで自然に止めない。
ふたつ目。普段の処方をL-ドパ換算で見直す。
みっつ目。可能なら経管投与を含めて経口薬をつなぐ方法を考え、それが難しいときに点滴や貼付剤を個別に検討する。

これは、処方を丸暗記する話ではありません。
入院して薬が飲めなくなったとき、どこで立ち止まるか。その順番の話です。

こあら先生のひとりごと

ドパストン静注の添付文書には・・

用法及び用量のところには「通常成人1日量レボドパとして25~50mgを1~2回に分けて、そのままゆっくり静注又は、生理食塩液もしくはブドウ糖注射液等に希釈して点滴静注する。なお、年齢・症状に応じて適宜増減する。」と書いてあります。

少なすぎるんじゃないかと思った先生!
僕もそう思いました。
でも、インタビューフォームを読んでみると、いろいろ見えてきます。

参考文献
大原薬品工業株式会社.医薬品インタビューフォーム ドパストン静注25mg/50mghttps://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/(最終閲覧日:2026年4月22日)


静注のレボドパは、内服と同じ「量」では語れないようです。
同じ50mgでも、内服とはまったく違う効き方をする。
症例によっては、内服の数千mgに相当することもある。
そして、その比率は一定ではなく、大きく揺れる。
それらはまた、歴史的な、少数例での検討からの結果である。

僕の感想に過ぎませんが
つまりこれは、用量を「決める薬」ではなく、
用量を「探す薬」なのだと思います。

添付文書に書かれている25〜50mgという数字は、治療量ではない。
あれは、おそらく「ここから始めるしかない」という意味の数字です。

少なすぎるのではなく、
そこからしか始められない。
そもそも、目的が「完全中断回避」なのか「内服と同じ効果を点滴で出すのか」によっても量は変わってくるはずです。
もちろん、すべて、匿名のこあらの感想ですよ。

ガイドラインを見て、
換算表を見て、
添付文書を見て、
そして実際の患者さんを見て、
その3つを重ねながら調整していくしかないんでしょう。

秘書ユナのコメント

こあら先生はドパストン静注について考えていますが、
ニュープロパッチ(ロチゴチン)のような、貼付剤もありますよね。
消化管が使用できるなら、NGチューブからの内服薬継続も考えられます。

いずれにせよ「本記事は医療従事者に対する教育的情報の提供を目的としており、個別の診療に対する指示を構成するものではない」ことを強くお伝えしておきます。

加えて「患者さん・ご家族が自己判断で薬剤変更を行うための説明ではまったく無い」ことを強く強くお伝えしておきます。