糖尿病の患者さんを診るとき、血糖値はもちろん見ます。
ただ、血糖値だけで糖尿病の状態を判断することは、あまりありません。

血糖値は、採血時点の数字です。食事、採血時間、感染症、点滴、ステロイド、運動量で大きく動きます。

そこで見るのが、HbA1cです。

HbA1cは、糖尿病診療における通信簿のような数字です。今日一日の血糖ではなく、ここしばらくの血糖管理がどうだったかを、一つの数字として見せてくれます。

看護師や研修医にとっても、HbA1cはかなり大事な検査です。血糖値とHbA1cを合わせて見ることで、患者さんの糖尿病が「一時的に悪い」のか、「ここしばらく悪い」のかが見えやすくなります。

HbA1cは、ヘモグロビンエーワンシーと読みます

HbA1cは、「ヘモグロビンエーワンシー」と読みます。

赤血球の中には、酸素を運ぶヘモグロビンがあります。血液中のブドウ糖は、このヘモグロビンと少しずつ結合します。血糖が高い状態が続くほど、糖と結合したヘモグロビンの割合が増えます。

この「糖と結合したヘモグロビン」が、すべてのヘモグロビンの中でどのくらいあるのか。
それを割合で示したものがHbA1cです。

臨床の入口としては、まずこれで十分です。

血糖が高い状態が続くほど、HbA1cは上がる。

血糖値は「その瞬間」、HbA1cは「ここしばらく」

血糖値とHbA1cは、見ている時間が違います。

血糖値は、その瞬間の数字です。
HbA1cは、過去1〜2か月くらいの血糖状態を反映します。

たとえば、入院時の血糖値が250mg/dLだったとします。肺炎で発熱している、ステロイドを使っている、点滴が入っている。そういう状況では、その血糖値だけで普段の糖尿病管理を判断するのは危険です。

HbA1cが6%台なら、普段はそこまで悪くない可能性があります。
逆に、その日の血糖値がそれほど高くなくても、HbA1cが9%台なら、ここしばらく血糖が高かったと考えます。

血糖値はその場の写真。
HbA1cは、少し長い期間の記録。

この感覚で見ると、病棟での血糖評価がかなり整理しやすくなります。

なぜ、HbA1cを見るのか

医師がHbA1cを見る理由は、単に数字を下げたいからではありません。

糖尿病で問題になるのは、血糖が高い状態が長く続くことで、血管や神経が少しずつ傷むことです。

糖尿病性網膜症(目が悪くなる)
糖尿病性腎症
(腎機能が落ちる、人工透析リスク)
糖尿病性神経障害(足がしびれる、傷に気づきにくくなる)

これらは、糖尿病の代表的な細小血管合併症です。

こうした変化は、血糖が高い状態の積み重ねで進みます。だからHbA1cを見るのです。

HbA1cは、今日の血糖値を説明するだけの数字ではありません。
その患者さんの数年後、十数年後の合併症リスクを考えるための数字です。

Kumamoto Studyが教えてくれたこと

HbA1cの目標を考えるとき、日本の糖尿病診療でよく参照される研究の一つにKumamoto Studyがあります。

Kumamoto Studyは、日本人の2型糖尿病患者を対象に、血糖管理と糖尿病合併症の関係を調べた研究です。強化インスリン療法により、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害の発症や進行を遅らせ得ることが示されました。

参考文献の日本語資料では、HbA1c、空腹時血糖、食後2時間血糖と、網膜症・腎症の進行率との関係が図で整理されています。Kumamoto Studyの要点を確認するには、かなり使いやすい資料です。

ただし、研究で示された数値を、そのまますべての患者さんに当てはめるわけではありません。

低血糖リスクが低く、生活背景も安定していて、長期の合併症予防を狙える人なら、より良い血糖管理を目指す意味があります。一方で、高齢、腎機能低下、食事量不安定、独居、認知機能低下がある人では、同じ数字を追いかけることが危険になることもあります。

Kumamoto Studyは、血糖管理が細小血管合併症の予防に関わることを示した重要な根拠です。
ただし、その根拠をどう使うかは、患者さんごとに考えます。


参考文献

七里元亮, 岸川秀樹, 和氣伸庸. 2型糖尿病を対象とした10年間の無作為前向き調査研究(Kumamoto Study). Jpn J Clin Pharmacol Ther. 2001;32(3):457S-458S. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt1970/32/3/32_3_457S/_pdf/-char/en(最終閲覧日:2026年5月22日)

7.0%未満という目標

現在の糖尿病診療では、合併症予防の観点から、HbA1c7.0%未満が一つの目標とされています。

ただし、これは「7%を超えたらすぐ合併症が出る」という意味ではありません。
「7%未満なら絶対に合併症が出ない」という意味でもありません。

それでも、HbA1cが高い状態が続くほど、糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症などのリスクは上がります。だから、7.0%未満という目標が使われます。

若く、低血糖リスクが低く、長期予後を考える患者さんでは、しっかり血糖を下げる意味があります。

一方で、高齢、認知機能低下、食事量不安定、独居、腎機能低下がある患者さんでは、HbA1cだけを見て薬を増やすと、低血糖や転倒、意識障害につながることがあります。

HbA1cだけで判断してはいけない場面

HbA1cは便利な検査ですが、万能ではありません。

貧血。
溶血。
輸血後。
腎不全。
妊娠中。
赤血球寿命が通常と異なる状態。

こうした場面では、HbA1cが実際の血糖状態をうまく反映しないことがあります。

HbA1cが思ったより低い。
でも血糖値は高い。
あるいは、HbA1cが高いのに、日々の血糖測定ではそこまで高くない。

こういうときは、HbA1cを信じてよい状況かを確認します。

検査値は、いつも正しい顔をして出てきます。
でも、その数字が何を反映しているかは、こちらが考えなければなりません。

病棟でHbA1cを見るとき

病棟で糖尿病患者さんを受け持つとき、私はHbA1cを早い段階で確認します。

入院時血糖だけでは、普段の糖尿病管理が見えにくいからです。

入院時に血糖が高い。
これは普段から悪いのか。
今回の病気で一時的に上がっているのか。
ステロイドや点滴の影響なのか。
薬が効いていないのか。
そもそも薬を飲めていなかったのか。

この問いに答えるとき、HbA1cは役に立ちます。

HbA1cが9%台なら、入院前から血糖管理が不十分だった可能性を考えます。
一方で、HbA1cが6%台なのに入院後だけ血糖が高いなら、感染症、ステロイド、点滴、ストレス高血糖などを考えます。

同じ血糖250mg/dLでも、背景は違います。
そこを見分けるためにHbA1cを使います。

看護師・研修医が見るべきポイント

看護師や研修医は、HbA1cを見たときに、単に「高い」「低い」で終わらせない方がよいと思います。

この数字は、ここ1〜2か月の血糖を反映しているのか。
この患者さんでは、HbA1cを信じてよいのか。
この数字を下げることで、何を守りたいのか。
低血糖リスクはどのくらいあるのか。
退院後も同じ治療を続けられるのか。

このあたりを考えると、HbA1cは単なる検査値ではなく、治療方針を考える入口になります。

特に高齢者では、HbA1cが少し高いからといって、単純に厳格管理へ進むわけではありません。低血糖を起こしたときの危険が大きいからです。

「なぜ、この患者さんは血糖が高めでも様子を見るのか」
「なぜ、この患者さんは食前血糖を細かく見ているのか」
「なぜ、退院前に糖尿病薬を調整しているのか」

HbA1cを知っていると、こうした判断の背景が見えやすくなります。

前提・分析・結論

前提:HbA1cは、糖尿病診療で血糖管理の状態を評価する中心的な検査であり、過去1〜2か月程度の血糖状態を反映します。

分析:HbA1cが高い状態が続くと、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害などの細小血管合併症のリスクが高まります。一方で、貧血、溶血、輸血後、腎不全などでは、HbA1cの解釈に注意が必要です。

結論:HbA1cは、糖尿病診療で必ず見る数字です。ただし、HbA1cだけで治療を決めるのではなく、年齢、低血糖リスク、腎機能、生活背景、合併症の有無を合わせて考えることが、実際の診療では自然です。

こあら先生のひとりごと

基礎から書いたため、少し冗長になってしまいました・・(反省)

プロに向けて、今回の記事でお伝えしたいことは、「参考文献の図を見てください」ということです。

網膜症の進行率と、HbA1c・空腹時血糖・食後2時間血糖の関係を。
腎症の進行率と、HbA1c・空腹時血糖・食後2時間血糖の関係を。

僕はこのグラフを見て、7.0%未満という目標を、単なる数字ではなく、リスクのイメージとして捉えやすくなりました。