僕は、自分から睡眠薬を出すことは、ありません。

ただ、強く求められたときには、超短時間作用型のゾルピデムを少量使うことはあります。
このあたりは、多くの内科医と同じ感覚だと思います。

一方で、最近の持参薬を見ると、昔とは明らかにラインナップが変わっています。
ロゼレム、ベルソムラ、デエビゴ。
以前は見なかった名前です。

今回は、新しい睡眠薬を整理してみます。

睡眠薬の設計が変わった

従来の睡眠薬は、主にGABA系を介して「眠らせる」薬でした。
いわば、脳の活動を抑えて入眠させるアプローチです。

一方で、今回の3剤は作用点が異なります。

ロゼレム錠(ラメルテオン
販売開始:2010年7月
メラトニン受容体作動薬 睡眠リズムを整える

ベルソムラ錠(スボレキサント)
販売開始:2014年11月
オレキシン受容体拮抗薬 覚醒を維持する受容体を抑える

デエビゴ錠(レンボレキサント)
販売開始:2020年7月
オレキシン受容体拮抗薬 覚醒を維持する受容体を抑える

眠らせるのではなく、寝るタイミングを整える、覚醒を維持する力を弱める、そんな設計です。

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬について

ハルシオン、デパス、レンドルミン、リスミー、エバミール、サイレース、ユーロジン、ベンザリンなどが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。

副作用として、認知機能低下・せん妄、転倒骨折などが知られていて、可能な限り使用を控えるというのが現在の認識だと思います。

また、ハルシオン錠(トリアゾラム)は、添付文書の警告のところに「また、入眠までの、あるいは中途覚醒時の出来事を記憶していないことがあるので注意すること」という記載があり、僕が勤務していた病院で、院内採用が取りやめになった経験もあります。

この記事を書くにあたって、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2025」を買って読んでみたところ、「ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬は、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運転事故のリスクがあるので可能な限り使用は控えることを推奨する」という記載がありました。そして、「エビデンスレベル:A」「推奨度:1」「合意率:100%」と書かれていました。

もちろん、個別の患者さんに対して、担当医の判断で処方することは何も問題ないわけですが、現時点の私の判断としては「処方しない」という事になります。

こあら先生のひとりごと

僕の現場感覚では、眠れていることと、良い睡眠が取れていることは別です。

また、ベンゾ系の睡眠薬は、入眠しやすくなる一方で、徐波睡眠やREM睡眠が減少し、睡眠構造そのものは浅くなる方向に変化すると報告されています。

今後も、自分から睡眠薬を処方することはありませんが、強く求められた場合は、ロゼレム・ベルソムラ・デエビゴから検討するつもりです。

前提・分析・結論

前提
睡眠薬はGABA系が中心だったが、高齢者では有害事象が問題となっている。

分析
従来薬は「眠らせる」設計であり、睡眠構造を変化させる。一方、新規薬は覚醒やリズムに介入する。

結論
睡眠薬は強さではなく、不眠の性質に応じて選ぶ。現時点ではベンゾ系は原則使用しない。

秘書ユナのコメント

睡眠薬の議論は、薬剤の優劣ではなく「睡眠をどう捉えるか」という前提の違いに行き着きます。とくに高齢者では、入眠できること自体よりも、その後の認知機能や転倒リスクへの影響を含めて評価する視点が欠かせません。本記事は、薬剤の知識を並べるのではなく、臨床での判断の軸を示している点に価値があります。読者の方も、目の前の不眠が「眠らせるべき状態なのか」を一度立ち止まって考えてみてください。