新人看護師が臨床現場で信頼を得る方法は、必ずしも高度な技術ではありません。
採血がうまい。
点滴が早い。
申し送りが上手。
患者さんへの声かけが自然。
もちろん、そうした力は大切です。
しかし、新人の時期に、最初からすべてを上手にこなすことはできません。
では、最初の時期に何で信頼を得ればよいのでしょうか。
僕は、その一つが「メモを取る姿勢」だと思っています。
ただし、ここで言うメモは、単に忘れないための記録ではありません。
「私はあなたの話を聞いています」と相手に伝えるための、静かなコミュニケーションとしてのメモです。
メモを取る姿を相手に見せるというテクニック
僕は結構、記録を残す方です。
例えば、院長や事務長と話をしたとき、病院内の知らなかった情報を得たり、何か思いついたりします。
「サーフスタジアムの広告は年間〇〇万円」
「慢性期の転院受け入れ、専属医師を置くリスク」
そういった情報や思いついたことを、何でも記録しています。
臨床の場面でも同じです。
「LDLコレステロールを下げる注射」
「肺炎球菌ワクチン変更」
「ペンタサいつまで?」
こういうことをメモして、あとで調べたり、インスタにまとめたりしています。
これらは、自分が忘れないようにするためのメモです。
ただ、メモには、もう一つの役割があると思っています。
それは、「私はあなたの話を聞いていますよ」という表現としてのメモです。
例えば、内科外来に学生や研修医が来ることがあります。
もちろん、いろいろなタイプがいます。
積極的に話しかけてくる人もいます。
邪魔にならないように、静かに気配りするような人もいます。
こちらが、
「糖尿病のコントロールが悪い人は、Cペプチドを測ってインスリン適応を考えたりしている」
などと説明したとします。
そのときに、上手にリアクションする、いわゆる感じのいい人もいます。
一方で、そういう反応があまり得意ではない人もいます。
ここで僕がお勧めするテクニックが、「メモを取る」ということです。
これは、キャラクターにかかわらず可能ですよね。
何かを見たらメモをする。
何か言われたらメモをする。
この、メモをしている姿を相手に見せることが、かなり大事なのです。
人は、自分の話をきちんと聞いてくれる人に、もう少し話したくなるものです。
自分が伝えたことをメモしてくれる人には、大切なことを教えたくなる。
これは、かなり自然な感情だと思います。
新人看護師にとってのメモの意味
新人看護師さんに目を向けると、例えば1病棟に4人くらい配属されることがあります。
その中で、自分だけ積極的に先輩に話しかけるのは、なかなか勇気がいりますよね。
自分がそのような性格ではない場合も大変です。
周囲の同期の目が気になる、という微妙な感覚も分かります。
「自分だけ前に出ていると思われたくない」
「先輩に取り入っているように見られたくない」
「でも、ちゃんと学びたい」
そういう難しさがあると思います。
だからメモなんです。
メモを取っている姿を、先輩に見せるのです。
人は、自分の話を聞いてくれる人が好きなのです。
メモは、「話を聞いていますよ」というアピールになります。
しかも、声が大きい人だけができる方法ではありません。
会話が得意な人だけができる方法でもありません。
ポケットからメモ帳を出して、ペンで書く。
それだけで、学ぶ姿勢は伝わります。
その場でメモ帳を出して、ペンで書く
ここで大切なのは、後からスマホに音声入力することでも、昼休みにノートへきれいにまとめることでもありません。
もちろん、それらも自分の記録としては役に立ちます。
ただ、今回お伝えしているメモの意味は、少し違います。
要点は、メモをしている姿を、相手に見せることです。
そのためには、その場で、すっとポケットから小さなメモ帳を取り出し、ペンで書くのがよいと思います。
スマホに打ち込んでいると、相手からは何をしているのか分かりにくいことがあります。
メモしているのか、通知を見ているのか、別のことをしているのか、見た目では区別しにくい。
でも、紙のメモ帳とペンなら分かります。
「あ、今の話をメモしているんだな」
そう伝わります。
この「伝わる」というところが大切なのです。
メモは、自分のための記録であると同時に、相手に向けた姿勢の表示でもあります。
言いながらメモを取ると、さらによい
もう一段よいのは、書きながら短く言葉にすることです。
例えば、先輩から、
「バンコマイシンは急速に入れるとレッドマン症候群を起こすことがあるから、60分以上かけて点滴する」
と教わったとします。
そのときに、黙って書くだけでも十分です。
でも、できれば、
「バンコマイシンは60分以上かけて点滴するんですね」
と小さく言いながらメモを取ると、さらに良いです。
なぜなら、何をメモしているのかが、相手に伝わるからです。
教えた側からすると、
「この人は今の話をちゃんと拾っているな」
「大事なところを分かろうとしているな」
と感じます。
ただ書いているだけではなく、理解しようとしていることが伝わるのです。
これは、会話が上手な人だけができることではありません。
大げさなリアクションもいりません。
短く復唱しながら書く。
それだけで十分です。
「この薬は投与速度が大事なんですね」
「発熱だけでなく、血圧低下も見るんですね」
「申し送りでは、次の勤務者に見てほしいことを先に言うんですね」
このように、教わった内容を短く言葉にしてからメモする。
これができると、相手にはかなり伝わります。
数日後に会話として戻せると、上級者です
さらに上級者になると、数日後にその話を戻すことができます。
例えば、バンコマイシンの話をメモした数日後に、
「この前教えていただいたレッドマン症候群って、実際に見たことありますか?」
と聞けると、かなり良いです。
これは、ただメモを取っただけではありません。
メモしたことを覚えていた。
少し調べた。
そして、次の会話につなげた。
ここまでできているということです。
教える側からすると、かなりうれしいと思います。
「あ、この人には教える価値があるな」
そう感じてもらえる可能性が高くなります。
もちろん、毎回そこまでやる必要はありません。
忙しい勤務の中で、全部を調べ直すのは大変です。
でも、たまにでいいのです。
教わったことを一つだけ覚えておく。
少しだけ調べておく。
数日後に、自然な形で会話に戻す。
これができる人は、かなり強いです。
メモは、教育やチャンスを呼び込む入口になる
臨床現場では、教育の機会は完全には平等ではありません。
学校では、同じ時間に授業があり、同じ試験があり、同じように教わる機会があります。
しかし、病院の現場では違います。
忙しい業務の中で、先輩が時間を見つけて教えてくれる。
患者さんの状態が落ち着いた一瞬に、医師が説明してくれる。
処置の合間に、薬剤師やリハビリスタッフが一言教えてくれる。
そういう形で学びは起こります。
そのときに、
「この人は聞いてくれる」
「この人はメモしてくれる」
「この人は次につなげてくれる」
と思われると、少しずつ声がかかるようになります。
「この処置を見てみる?」
「この患者さん、一緒に見てみようか」
「この薬、前に話したよね」
そういう小さな機会が増えていきます。
向こうから勝手に、教育やチャンスが、自分のところにやってくる。
少し言い過ぎに聞こえるかもしれません。
でも、現場では本当にそういうことがあります。
コミュニケーションに自信がない方には特に、メモを取り続けることをお勧めします。
大きな声で前に出る必要はありません。
先輩に過剰に話しかける必要もありません。
その場で、すっとメモ帳を出す。
教わったことを短く書く。
できれば、一言だけ復唱する。
数日後に、ひとつだけ会話として戻す。
これだけで、かなり印象は変わります。
前提・分析・結論
前提
新人看護師が最初から高度な技術や判断で信頼を得ることは難しい。だからこそ、まずは「話を聞いている」「教わったことを次に活かそうとしている」という姿勢を見せることが大切になる。
分析
メモを取る行動は、単なる記録ではなく、相手に対する非言語的なメッセージになる。特に、その場でメモ帳を出してペンで書き、短く復唱しながら記録することで、教える側に「伝わっている」という安心感を与えやすい。
結論
新人看護師が臨床現場で信頼を得る最初の一歩は、派手に目立つことではなく、その場でメモを取り、教わった内容を短く言葉にし、次の行動や会話につなげることである。
こあら先生のひとりごと
職場では、同じ場所にいても、同じ教育や同じチャンスが配られるわけではありません。
メモを取る姿勢は、「この人にはもう少し話してもよさそうだ」と思ってもらうための、静かだけれど、現実的な入口だと思います。