「SpO₂は97%です」
その数字を聞いて、少し安心することがあります。
でも、患者さんの呼吸がいつもより速いなら、そこで一度立ち止まりたい。
僕は回診で、まず呼吸の様子を見ています。
胸の動き、息の深さ、話し方。患者さんのそばに行くと、モニターの数字と一緒に確かめたいことがいくつもあります。
呼吸数だけで病名は決まりません。
それでも、「この人は、いつもと少し違うかもしれない」と気づく入口になります。
今回は、成人の病棟診療を念頭に、呼吸数の見方と、気づいた変化の伝え方を整理します。
回診では、呼吸の速さと一緒に「呼吸の仕方」を見る
患者さんのところへ行ったら、挨拶をしながら呼吸を見ます。
肩を持ち上げるように息をしていないか。
一言話すたびに、息継ぎが必要になっていないか。
胸やお腹の動きが浅くなっていないか。
呼吸が速いことに加えて、どのように息をしているかを見ておくと、次に確かめたいことが変わります。
たとえば「呼吸数が多い」という情報に、「会話が途切れる」「呼びかけへの反応が鈍い」が加われば、急いで対応する必要を感じます。
こうした明らかな異変があるときは、測定をすべて終えるのを待たず、応援を呼びながら評価と対応を進めます。
目で気づいた呼吸を、実際の回数で確かめる
呼吸の変化には、見て気づけます。
ただ、呼吸数として記録し、誰かに伝えるには、時間を測って数える必要があります。
胸やお腹が上がって下がる一往復を1回として数えます。患者さんができるだけ自然に呼吸しているところを観察し、基本は1分間かけて確認します。特に呼吸が不規則なときは、短時間の回数を何倍かして済ませないようにしたいところです。
成人の安静時の呼吸数は、一般に1分間に12〜20回が目安とされます。ただし、歩いた直後なのか、安静にしているのかでも変わります。
国内の救急救命学科の学生を対象としたシミュレーション研究では、呼吸の速さを「遅い・正常・速い」に分ける評価でも、正常な呼吸を正しく判断できない例がありました。学生とシミュレーターでの研究ですが、見た印象がいつも正しいとは限らないことを考えさせられます。[1]
「いつもより速そうだ」と気づき、数えて確かめる。
その両方がそろうと、観察したことを次の人にも渡せます。
SpO₂が正常でも、呼吸が速くなる理由はある
SpO₂は、血液中のヘモグロビンに酸素がどのくらい結びついているかをみる指標です。体の隅々まで十分な酸素が届いているかを、それだけで判断することはできません。[2]
たとえば、次のような場面があります。
貧血や血流の低下があるとき
貧血では酸素を運ぶヘモグロビンそのものが少なくなります。また、血流が低下すれば、組織に運べる酸素も不足し得ます。
そのため、SpO₂が保たれていても、体への酸素供給が十分とは限りません。[2]
代謝性アシドーシスがあるとき
糖尿病性ケトアシドーシスなどでは、代謝性アシドーシスに対する代償として呼吸が深く、大きくなることがあります。
呼吸の回数に加えて、深さにも目を向けたい場面です。肺の病気だけを考えていると、こうした呼吸を見落としかねません。[3]
発熱や痛み、不安があるとき
発熱や痛み、不安でも呼吸数は増えます。ただ、目の前の患者さんの呼吸が速い理由を、「熱のせいでしょう」「不安が強いのでしょう」と早く決めすぎないようにしたい。
肺炎や心不全などの呼吸・循環の問題に、発熱や代謝の変化が重なることもあります。
「酸素が足りない型」と「それ以外の型」にきれいに分けるより、いくつかの原因が重なっていないかを考える方が、実際の患者さんには合っていると思います。
酸素投与中は、SpO₂と呼吸の様子を並べて見る
酸素を投与してSpO₂が保たれていても、換気が十分かどうかは別に確かめる必要があります。
SpO₂では、二酸化炭素が体にたまっていないか、血液のpHがどうなっているかはわかりません。呼吸の深さや意識の変化も見て、必要に応じて血液ガスで評価します。[2]
呼吸が速いというだけで、一律に酸素投与を決めることもできません。低酸素血症や全身状態を評価し、必要な酸素投与と原因への対応につなげます。
また、呼吸数は多いときだけ気になるわけではありません。
新たに呼吸が遅く、浅くなり、反応も鈍くなってきたなら、落ち着いたと受け取らず、すぐに評価したい変化です。
呼吸数は、「いつもとの違い」も見る
1分間に何回だったか。
それに加えて、前回はどうだったかを知りたいと思います。
たとえば、安静時に16回だった人が28回になっている。
これは説明のための例ですが、「28回です」に「普段は16回くらいです」が加わると、変化が伝わります。
感染症を疑う場面では、qSOFAの項目にも呼吸数22回/分以上が含まれています。ただし、この数値だけで敗血症を診断したり、それ未満なら安心したりするものではありません。日本版敗血症診療ガイドライン2024でも、qSOFAの感度の低さや、単独で用いる場合の限界が示されています。[4]
数値を目安にしながら、意識、血圧、脈拍、SpO₂、そして目の前の様子を合わせて考える。
呼吸数にも、その人の経過があります。
発熱の報告に、呼吸数と見た様子を添える
「38.5℃の熱が出ています」
発熱を知らせてもらうことは大切です。
そこに呼吸数や患者さんの様子が加わると、受け取る側も状態を思い描きやすくなります。
たとえば、次のような報告です。数値は説明のための架空の例です。
「38.5℃の発熱があります。呼吸数は安静時に28回で、普段の16回前後から増えています。SpO₂は室内気で97%です。会話はできますが、いつもより息継ぎが多く、気になります。診察をお願いします」
実際には血圧や脈拍、意識の状態なども合わせて伝えます。酸素を使っている場合は、投与方法と流量も添えます。
ここでありがたいのは、数値と一緒に「いつもと違う」が届くことです。
そばで見ている人の気づきが、診察を急ぐ判断につながります。
報告を受ける僕の側も、「呼吸はどうですか」と聞くだけで終わらず、その変化を確かめに行きたいと思います。
参考文献
[1]竹井豊、安達哲浩、長谷川恵、ほか.救急救命士養成施設における学生のバイタルサイン測定の正確性.日本臨床救急医学会雑誌.2020;23(2):105–109.
[2]日本呼吸器学会 肺生理専門委員会.Q&A パルスオキシメータハンドブック.2014.生理学的基本事項、病棟や検査室での疑問点を参照.
[3]日本糖尿病学会.糖尿病合併症について.「糖尿病性ケトアシドーシスとは」.
[4]日本集中治療医学会・日本救急医学会.日本版敗血症診療ガイドライン2024.CQ1-3「一般病棟,ERで敗血症を早期発見する方法は?」.
最終閲覧日:2026年10月3日
こあら先生のひとりごと
医学的正確性を重視しすぎた、まったりした本文です・・・
僕が言いたいのは、「呼吸が速い人は何か起きてますよ」という事です。
呼吸回数は目で見える、唯一のバイタルサインです。
“The respiratory rate is the only vital sign you can see without a device.”










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