ウルトラ総合病院 令和3年2月分

病院の偉い人が集まって会議とかすること、あるじゃないですか。
そんな時に医事課から、こんな資料が配られたとします。
「当月の医業収入は、外来9938万8902円、入院4億8802万393円、合計5億8740万7443円。前月比プラス1億1891万7652円、前年同月比プラス3835万1928円でした」
とか説明されたら、どうでしょうか。
僕なら、
「だから何やねん!」
ですよ。
言わないけど。
もちろん、医事課としてはこうした詳細な数字を把握しておく必要があります。何か異常があれば、外来なのか入院なのか、件数なのか日数なのか、細かく見ていく必要があるからです。
ただ、経営会議で最初に見たい資料としては、ちょっと情報が多い。
少なくとも僕は、この細かな数字を一つひとつ追うことはないですね。
目が疲れますから。
そっと目を閉じます。
大事そうなところに色を塗ってみてはどうでしょうか

まず、知りたいことを決めます。
今回知りたいのは、
「今年の2月は、良かったのか悪かったのか」
ということです。
では、何と比べればよいのでしょうか。
前月と比べる方法もあります。ただ、病院の医業収入には季節による変動があります。
1月と2月では診療日数も違いますし、冬と夏でも患者数は変わります。
そう考えると、2月の実績を見るなら、まず比較したいのは前年の2月です。
そこで、当月と前年同月だけに色をつけてみます。
これだけでも、先ほどより見る場所がかなり分かりやすくなりました。
もっとシンプルにする

だったら、もっと減らしてしまってもよいのではないでしょうか。
今年の2月と、前年の2月。
売上だけ。
これだけです。
「こんなに削ってしまって大丈夫なの?」
と思う人もいるかもしれません。
でも、この資料で言いたいことが、
「今年の2月は、前年2月より売上が増えた」
ということだけなら、僕はこれで十分だと思います。
「前月」「前月差」「外来」「入院」「件数」「日数」。
これらは必要になった時に見ればよい情報です。
すべてを1枚の資料に載せると、情報量は増えます。
でも、情報量が増えることと、伝わる情報が増えることは、同じではありません。
ちなみに、このシンプルな表にも少し問題があります。
普通は上から下へ読んでいくので、
前年2月 → 今年2月
の順番に並べた方が、時間の流れとして自然でしょう。
先ほどのシンプルな表をグラフにしてみた

余力があれば、グラフにした方がさらに伝わりやすいかもしれません。
数字を読まなくても、大小関係が視覚的に分かるからです。
ただし、このグラフもそのままでは少し気になります。
普通は左から右へ時間が流れていきます。
ですから、
前年同月が左、当月が右。
この並びの方が自然です。
エクセルのグラフ作成ボタンを押せば、グラフそのものはすぐにできます。
でも、出来上がったグラフをそのまま会議資料に貼り付けるのではなく、
「見る人に、どう見えるか」
を一度考えてから整えた方がよいと思います。
縦軸を調節して、差を強調してみる

今度は縦軸を見てください。
ゼロから始めず、下の部分を省略しました。
こうすると、前年と今年の差がかなり大きく見えます。
同じ数字なのに、グラフの作り方で印象は変わるのです。
これはプレゼンでは知っておくと便利な方法ですが、一方で注意も必要です。
縦軸を途中から始めれば、実際の差以上に大きな変化があるように感じることがあります。
自分が資料を作る時には、この効果を知った上で使う。
逆に、人のプレゼンを見る時には、
「このグラフ、縦軸はどこから始まっているんだろう?」
と見る。
だまされないためにも、知っておいて損はありません。
文字を大きくして、言いたいことを上に書く

さらに資料を整えてみます。
まず、文字を大きくします。
プレゼン資料の小さな文字なんか、みんな見てくれないですよ。
自信をもって言いますが、見ないです。
さらには、経営会議に出ている人はだいたい老眼です。
見たくても見えません。
そしてもう一つ。
このグラフを見て、何を感じてほしいのか。
それを一番上に、大きな文字で書いてしまいます。
今回であれば、
「昨年2月と比較して収入は増加」
です。
グラフを見た人に結論を考えてもらうのではなく、こちらの主張を先に伝える。
そのうえで、「本当にそうなの?」と思った人がグラフを見る。
その順番の方が、会議資料としては分かりやすいと思います。
昨年だけと比べても、インパクトはない
ところで、
「前年2月より売上が増えました」
というだけで、病院経営として何が言えるでしょうか。
実は、それほど大したことは言えません。
たまたま昨年2月が悪かっただけかもしれない。
今年だけ患者さんが多かった可能性もあります。
経営を見るのであれば、もう少し長い時間軸で見たくなります。

例えば、5年分を並べてみる。
すると、
「この病院の2月の売上は、長期的に増加している」
という傾向が見えてきます。
2点だけでは「差」しか分かりません。
5点並ぶと「傾向」が見えてくる。
ここは大きな違いだと思います。
経営会議の資料は「全部見せる」必要はない
もちろん、最初に示した細かな表が不要だという話ではありません。
詳細な数字は、きちんと残しておけばよいのです。
例えば売上が落ちた時には、
外来が減ったのか。
入院が減ったのか。
患者数なのか、診療単価なのか。
診療日数の影響なのか。
そこまで降りて調べる必要があります。
ただ、経営会議で最初に見せる1枚と、原因を調べるための詳細資料は、役割が違います。
経営会議で最初に知りたいのは、
「結局、今月はどうだったの?」
ということではないでしょうか。
だから最初の1枚は、できるだけシンプルにする。
必要なら、その後ろに詳細資料をつけておけばよいのです。
なお、実際の経営管理では前年同月比だけでなく、予算比も見たいところです。
前年より増えていても、今年の計画を下回っているかもしれません。
前年同月比で過去との比較。
予算比で計画との比較。
さらに数年間の推移で長期的な傾向を見る。
こうしていくと、単なる「数字の報告」から、少しずつ「経営を考えるための資料」になっていくように思います。
資料には、たくさんの数字を載せることができます。
でも、たくさん載せれば伝わるわけではありません。
何を伝えたいのかを決めて、それ以外をいったん消してみる。
経営会議の資料を作る時には、そんな工夫があってもよいと思います。
秘書ユナのコメント
数字をエクセルに入力して、グラフ作成ボタンを押して、出席者の人数分を印刷する。会議では数字を読み上げて、偉い人に何かを決めてもらったり、そのまま聞き流されたり……。
そうじゃないと思います。
専門職であるあなたが、専門的な視点で数字を見て、病院全体を見て、そこから何が読み取れるのかを考える。そして、伝えるべきことを自分の言葉で伝える。
そこまでが仕事なんじゃないでしょうか。
こあら先生のひとりごと
資料作成って、数字を並べる仕事じゃないんですよ。何を伝えるかを決める仕事なんです。