先日、エムスリーキャリアの担当者と、医師採用について話す機会があった。

そのとき、僕からお伝えしたことがある。

医師を紹介する仕事の価値は、転職を成立させることだけではない。その医師が十分に力を発揮できる場所と結びつけることで、結果として、日本の医療の質とアクセスを底上げすることではないか。

面談が終わったあとも、このことを少し考えていた。

(1)高島先生が3回転職すると、何が起きるのか

まず、架空の「高島先生」で考えてみる。

特定の紹介会社や病院について書いているわけではない。人材紹介というビジネスの構造を分かりやすくするための仮想例である。

紹介料を、分かりやすく年収の30%と仮定する。

年収1000万円の高島先生が、A病院に転職すると、病院から紹介会社へ300万円が支払われる。

6か月後、紹介会社から電話がかかってくる。

「先生、新しい病院はどうですか。専門性は発揮できていますか」

「まあまあいいけど、当直がきついね。全科当直で、小児や外傷も診ないといけないから」

すると、担当者は新しい勤務先を探してくれる。面接にも同行して、当直免除の交渉までしてくれる。

高島先生がB病院へ転職すると、今度はB病院から300万円が支払われる。

1年後、再び電話がかかってくる。

「先生、元気でやっていますか」

「当直がないのは助かるけど、何だか大勢の中の一人という感じで、達成感がないんだよね」

これは、ありそうな話である。

同世代の医師が当直をしているなかで、自分だけ当直を免除された新参者が、すぐに組織の中心的な役割を担えるとは思えない。

すると今度は、

「先生も、そろそろ一国一城の主になりませんか」

と、老健施設長を勧められる。

高島先生が転職し、年収が2000万円になれば、紹介料は600万円になる。

単純計算では、紹介会社の売上は合計1200万円。

高島先生の年収も上がった。

では、日本の医療は良くなったのだろうか。

転職のたびに、元の勤務先では後任の確保という課題が生じる。後任が見つかるまでは、残った医師の負担が増えるかもしれない。外来枠が減ったり、救急車を断ったりすることもあるだろう。

地域にいる医師の数は、一人も増えていない。

もちろん、これは転職が悪いという話ではない。

今いる病院では力を発揮できず、別の病院へ移ったことで、医師本人にも患者さんにも良い結果になることはたくさんある。

僕が気になるのは、そこではない。

「転職が成立したときには大きな売上が立つ。しかし、転職しないほうがよいと判断しても、紹介料は発生しない」

というビジネスの構造である。

(2)医師を動かすことより、医師の力を生かすこと

僕は、全国展開している医療法人で勤務している。

日々の仕事は臨床だが、医師がどこで、どのように働いているのかということには、以前から関心がある。

同じ一人の医師でも、置かれる場所によって、発揮できる力はずいぶん違う。

内視鏡治療の上手な医師がいても、症例がほとんどなければ、その力量は十分に生かせない。

救急診療が得意な医師が、救急車をほとんど受けない病院にいることもある。

若手を育てるのが抜群に上手な医師が、研修医のいない病院にいるかもしれない。

反対に、若い医師がたくさん集まっているのに、その医師たちを育てられる指導医が足りない病院もある。

これは「医師が足りない」という問題とは、少し違う。

「医師の能力」と「その能力を必要としている場所」が、うまく出会えていない問題である。

全国展開している医療法人であれば、法人内の病院を見渡しながら、

「この先生は、こちらの病院で働いたほうが力を発揮できるのではないか」

と考えることができる。

M3キャリアなら、それを一つの法人の中だけでなく、日本全国を舞台に考えられる可能性がある。

大学の系列も、医療法人の壁も、県境も越えられる。

ここに、僕はM3キャリアの大きな可能性を感じる。

(3)そのためには、転職するときだけ医師と会っていては遅い

ただし、問題がある。

医師が「そろそろ転職しようかな」と思ってから初めてM3キャリアに登録したのでは、その医師のことを十分には分からない。

年齢、専門医資格、希望勤務地、希望年収。

そうした情報は分かる。

でも、その医師が本当に得意なことは何なのか。

どんな患者さんを診るときに力を発揮するのか。

何を面白いと思っているのか。

これから何を学びたいのか。

50歳になったとき、臨床を続けたいのか、若手を育てたいのか、病院をまとめる仕事をしてみたいのか。

家族の状況が変われば、働き方も変わる。

こういうことは、転職活動を始めて2回、3回面談しただけでは、なかなか分からない。

だったら、もっと前から、その医師と付き合っていればよい。

そこで僕が考えた入口が、「学習」である。

(4)医師が一番欲しいものは、医師としての実力ではないか

これは、僕の感覚である。

YouTubeにも、Xにも、Instagramにも、ブログにも、医療情報はあふれている。

僕自身もInstagramやブログで、医療情報を無料で発信している。

それでもCareNeTVでは、医師・医療者向けの有料学習サービスが成立している。現在のプレミアム料金は、月払いで5500円、年払いでは5万2800円である。

つまり、無料コンテンツが大量にある時代でも、「ここで勉強する価値がある」と感じれば、お金を払う人はいる。

僕なら、有料で勝負したい。

無料ではなく、有料。

その代わり、本当に良いものを作る。

(5)学習サービスの中に、「AI教授」を置く

僕なら、単なる動画見放題にはしない。

中心に「AI教授」を置く。

AI教授には、5つくらいの仕事をしてもらいたい。

① 一流医師の思考過程を教える

「肺炎にはこの抗菌薬です」という知識だけではなく、

「この患者を見たとき、最初に何を考えたのか」
「どの情報で鑑別順位を変えたのか」
「なぜ、この検査はしなかったのか」

というところまで学べる。

医師としてある程度経験を積むと、教科書に書いてある結論より、一流の医師がどのように考えているのかのほうが面白くなってくる。

② AI教授と症例を考える

動画を見るだけではなく、症例を提示され、自分で答える。

AI教授が問い返す。

「なぜ、その検査を選んだのですか」
「この所見をどう考えますか」
「この患者が85歳だったら、方針を変えますか」

自然言語による対話は、学習効率が高いと感じている。

③ 医師としての「現在地」を見せる

僕は、これが一番面白いと思っている。

医者は、競争が好きな人が多い。

子どもの頃から試験を受け、医学部に入り、国家試験を受け、専門医を取る。

自分がどのあたりにいるのか、何となく気になる。

例えば、

「感染症の症例問題では、同じ経験年数の参加者の上位18%」

「心電図は半年前よりかなり改善」

「腎・電解質は平均的。ここを伸ばすと総合診療力が上がる」

そんなことが分かれば、僕なら見てみたい。

比較する医師の背景や人数も示す。

自分の現在地が分かることには、かなり強い魅力があると思う。

④ 次に何を勉強すればよいか教える

忙しい医師に、動画を3000本並べても困る。

「先生は今月、この3本を見てください」

と言ってくれたほうがありがたい。

医師にとって、お金以上に足りないものは、時間である。

⑤ 医師人生の相談にも乗る

学習を続けていれば、AI教授は、その医師の得意なことや興味を、少しずつ理解する。

自然言語によるディスカッションは、それに拍車をかける。

「最近、臨床より若手教育の質問が増えていますね」

「先生は5年前より、病院全体の仕組みに関心を持つようになっています」

そんなことも分かってくるかもしれない。

そこで初めて、キャリアの話につなげる。

ただし、

「先生、転職しましょう」

ではない。

「今の病院で役割を変えてみませんか」

かもしれない。

「週1日だけ、別の病院で経験を積んでみませんか」

かもしれない。

そして、本当に環境を変えたほうがよければ、転職を考える。

(6)M3には、すでに医師が集まっている

ここで、少し数字を見てみる。

親会社のエムスリーが運営するm3.comには、日本の医師の90%以上、35万人以上が登録している。

しかも2026年3月時点で、サイト内コンテンツの利用目的の約99%が「知識や情報のアップデート」だったという。

これは、かなり大きい。

M3は「医師をどう集めるか」から始めなくてよい。

すでに、多くの医師が日常的に知識を更新しに来ている。

m3TVという医師向け動画コンテンツもある。

だったら僕なら、その延長線上で、

「無料で情報を見る場所」

から、

「お金を払って、自分の医師としての力を高める場所」

へ、一段深く入っていく。

CareNeTVの真似をして動画を増やすだけではなく、「自分の現在地が分かる」「自分専用に学習が組まれる」「長く相談できる」というところまで持っていく。

(7)病院側からも、AI教授に話しかける

そして、AI教授には、病院のことも知ってもらう。

病院は、月額1万円くらいでAI教授とつながっておく。

月1回でもいい。

毎日話してもいい。

AIの利用料はかかる。それでも、人間が毎回面談するより、低い追加コストで接点を増やせる設計を目指す。

事務長や院長だけではなく、その病院の医師も話すべきだし、看護師さんにも話して欲しい。
バイトに来ている先生にしか分からないことだってある。

大事なのは、「求人票を入力してください」という仕組みにしないことである。

自然な言葉で話す。

「うちは内科医が4人いるんだけど、二人が50代後半なんだよね」

「若い先生は来るんだけど、数年すると大学へ戻ってしまう」

「救急車をもっと受けたい。でも、当直だけできる先生が欲しいわけじゃない」

「3年後には、総合診療を学びたい若い医師が集まる病院にしたい」

こういう話でよい。

僕が知ってほしいのは、

「この病院は、今どこに困っているのか」
「どんな病院になろうとしているのか」
「どんな医師なら、この病院で力を発揮できるのか」

という文脈である。

人間の担当者が、日本中の病院から毎日のように話を聞くことは難しい。

AIなら、対話を受け取り、整理し、

「この病院が本当に必要としているのは、単に当直に入れる内科医ではなく、救急入院後の診療を若手と一緒に考えられる指導医なのではないか」

と仮説を作ることができる。

病院が言語化できないニーズを、AIが察してくれることも、十分あると思う。

(8)医師と病院の情報が、AI教授のところで交差する

すると、面白いことが起きる。

ある50歳の医師がAI教授に、

「これからは、自分で患者をたくさん診るより、若い先生を育てる仕事を増やしたい」

と話している。

一方、ある地域病院は、

「若手は来る。でも、若手と一緒に患者を診てくれるベテランが足りない」

と話している。

今の人材紹介では、二人は出会わないかもしれない。

医師は、まだ転職サイトを見ていない。

病院も、まだ求人票を出していない。

でも、両方の話を聞いているAI教授なら、

「この二人は、一度話してみたら面白いのではないか」

と気づける。

いきなり転職しなくてもよい。

勉強会で会ってもいい。

月1回、その病院へ教えに行ってもいい。

週1日働いてみてもいい。

そこで相性が良ければ、将来、転職するかもしれない。

僕が「AI教授」と呼んでいる理由は、ここにある。

昔の医局の教授は、医局員を知り、関連病院を知り、

「あいつは、そろそろあの病院へ出したほうがいい」

と考えていた。

本人の事情も、地域の事情も、それなりに知っていた。

もちろん、昔の医局人事にはいろいろな問題もあった。

だから、人事を命じる権力を復活させたいわけではない。

医師の成長と、病院の事情を、長い時間軸で一緒に見てくれる機能だけを取り出したい。

昔の教授が見ていたのは、一つの医局だった。

AI教授なら、日本全国を見ることができる。

(9)では、どうやって儲けるのか

ここは大事なので、少しだけ計算してみる。

医師からは、紹介料を取らない。

医師が払うのは、学習(とAI教授との継続的な相談)への対価である。

例えば月額5000円。

医師1万人が加入すれば、

5000円×1万人×12か月で、年間6億円になる。

病院側は、月額1万円。

1000病院が利用すれば、年間1.2億円。

合わせて7.2億円の継続売上になる。

もちろん、教材制作、専門医による監修、システム開発、AI利用料、セキュリティ、営業などにお金はかかる。7.2億円がそのまま利益になるわけではない。

それでも、この7.2億円だけを見るのは、たぶん違う。

本当に大きいのは、その先である。

AI教授は、医師が何を学び、何をやりたいと思っているのかを知っている。

同時に、病院が何に困り、何を目指しているのかも知っている。

そこで良い組み合わせが見つかり、本人が転職を希望して採用が成立すれば、従来どおり病院から紹介料をいただく。

つまり、

「サブスクで大儲けする」

という話ではない。

学習と相談そのものでもきちんと対価をいただきながら、医師と病院を長く理解する。その結果、従来より質の高い紹介も増える。

この構造である。

ちなみにエムスリーキャリアの売上高は、2014年度の57.1億円から、2025年度には227.8億円まで伸びている。

すでに200億円を超える事業を持つ会社である。

今の事業を捨ててAI事業へ賭ける段階ではない。

今の成功報酬型の紹介事業を残しながら、その手前に「学習と相談」という継続収益を重ねる。

それが自然だと思う。

(10)医師からお金をもらってもよいのか

ここも少し調べてみた。

有料職業紹介事業者が、求職者から職業紹介そのものの手数料を取ることには制限がある。

一方、厚生労働省は、職業紹介とは明確に区分された教育訓練などについて、本人が自ら希望し、職業紹介の前提条件にしないのであれば、料金を徴収できるとしている。

だから、

「転職先を紹介するので、医師から5000円もらいます」

ではなく、

「医師として学び、成長し、キャリアについて考えるサービスに5000円払ってもらう」

という設計にする。

有料会員にならなくても、従来の職業紹介は利用できる。

求人の紹介や、それに伴う職業相談は、有料の学習サービスとは明確に分ける。

実際に事業化するなら、もちろん法務と所管行政への確認は必要になる。

でも、学習を有料化すること自体は、突飛な話ではない。

(11)データを持っているだけでは、一円にもならない

ここも、僕は大事だと思う。

医師と病院から大量の情報が集まれば、それが「データ資産」になる。

でも、データを持っているだけで儲かるわけではない。

医師が、

「この学習には月5000円払う価値がある」

と思う。

病院が、

「この相談なら月1万円払う価値がある」

と思う。

そして、

「この医師と、この病院をつないでくれたことには、紹介料を払う価値がある」

と思う。

そこまでいって、初めて売上になる。

だから僕なら、最初から35万人全員を相手にはしない。

まず、一つの診療領域、数百人くらいの医師で、本当にお金を払って学んでもらえるものを作る。

病院も数十施設くらいで始めればよい。

「面白いですね」

ではなく、

「来月も5000円払います」

と言ってくれるのか。

そこを確かめる。

無料で大量の医師を集めることより、最初の100人が自分のお金で払い続けることのほうが大切だと思う。

(12)転職させる会社から、医師の力を引き出す会社へ

最初に登場した高島先生に戻る。

「当直がきついんだよね」

と言われたとき、

「それなら、こちらの病院はいかがですか」

と求人を出すだけではなく、

「何が一番きついんでしょう。今の病院で変えられることはありますか」

と考える。

小児や外傷への対応に自信がないのであれば、AI教授で学ぶこともできる。

当直体制そのものに無理があるなら、病院側とも話す。

今の病院ではどうしても解決できない。それなら、別の場所を探す。

その順番でよい。

転職を止めることが目的ではない。

医師が、一番力を発揮できるところで働くことが目的である。

僕は、医師という仕事には、まだ使われていない力がたくさんあると思っている。

能力が足りないという意味ではない。

持っている能力を、十分に使えていない医師がいる。

もっと学びたいのに、何を学べばよいのか分からない医師がいる。

教育が得意なのに、その役割を持っていない医師もいる。

一方、日本中の病院が、「医師がいない」と困っている。

この二つを、もう少し上手につなげられないだろうか。

医師がもっと良い医師になりたいと思ったときから、その医師と付き合う。

学ぶことを支え、その医師の力を知る。

病院とも普段から話をして、その病院が本当に必要としているものを知る。

そして、両者が重なる場所を探す。

そんなことを、日本全国で少しずつ繰り返していく。

一人の医師が、自分に合った場所で、今より少し力を発揮する。

その病院では、受けられる救急車が少し増えるかもしれない。

若い医師が少し育ちやすくなるかもしれない。

患者さんが、遠くの病院まで行かなくても診てもらえるようになるかもしれない。

一件一件は、小さな変化である。

でも、それを日本中で積み重ねれば、日本の医療の質とアクセスは、じわっと底上げされる。

M3には、日本の医師の90%以上が登録するm3.comという土台がある。

エムスリーキャリアには、医師と病院をつないできた経験がある。

その会社が、医師を「転職させる」だけではなく、医師を「育て、その力を生かす」ところまで仕事を広げたら、かなり面白い。

僕なら、そんなM3キャリアを作ってみたい。

そして、それくらい良い「AI教授」ができたら、

僕も月5000円くらい払ってみようと思う。

こあら先生のひとりごと

AIでマッチングの精度がどれだけ上がっても、

最後の一歩は、人に背中を押してもらいたい。

そんな気はします。


参考文献

エムスリーキャリア株式会社.
会社概要
エムスリーキャリア株式会社.
https://www.m3career.com/company/company-profile/
(最終閲覧日:2026年9月11日)

エムスリー株式会社.
m3.com
エムスリー株式会社.
https://corporate.m3.com/service/m3com/
(最終閲覧日:2026年9月11日)

エムスリー株式会社.
2026年3月期 決算説明資料
エムスリー株式会社.2026年5月1日.
https://corporate.m3.com/assets.ctfassets.net/1pwj74siywcy/3Mr1oIykBnqCy2icptIS8d/4ca84096dade711d30dc8e0fb7e6f6c6/20260501_FY25Q4_presentation_J.pdf
(最終閲覧日:2026年9月11日)

株式会社ケアネット.
CareNeTVプレミアム
株式会社ケアネット.
https://carenetv.carenet.com/mailimages/lp/premium.html
(最終閲覧日:2026年9月11日)

厚生労働省.
職業紹介を一層効果的に行うための教育訓練等のサービスの提供について
厚生労働省.
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/syoukai/syoukai1.html
(最終閲覧日:2026年9月11日)