病院の建築費は、さらに高くなっています。

この水準では、今すぐ建て替えに踏み切れないという判断も自然です。

ただ、

「今は建てない」

と、

「もう考えない」

は、同じではありません。

以前、Instagram「静岡こあらの臨床サポート」で、『病院建て替えデータブック さらっと調査版』を投稿しました。

今回は、最新の病院建築費に加えて、複数棟の設備管理と水道光熱費という視点から、建て替えの議論をどう残すか考えます。

法定耐用年数39年は、病院の寿命ではない

鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の「店舗用・病院用」の建物には、税務上、39年という法定耐用年数が定められています。

ただし、この39年は、建物の物理的な寿命ではありません。

法定耐用年数とは、建物の取得費を何年間に分けて費用化するかを決める、減価償却上の年数です。

39年を過ぎたら、建物を使えなくなるわけではない。

反対に、築39年未満であれば、設備や配管、空調、電気系統に問題がないという意味でもありません。

病院の建物には、

・受変電設備
・空調設備
・給排水設備
・ボイラー
・換気設備
・医療ガス設備
・非常用発電設備

などが組み込まれています。

これらの設備は、建物本体と同じ時期に更新されるとは限りません。

病院の老朽化を考えるときには、「築何年か」だけではなく、建物の中にある設備が、いつ設置され、いつ更新されたのかを見る必要があります。

病院建築費は、投稿時よりさらに上がった

以前のInstagram投稿で紹介した2024年度の病院建築費は、1㎡当たり44万2000円でした。

福祉医療機構が2026年7月に公表した資料では、2025年度の病院の建築工事費は、消費税込みで1㎡当たり51万7000円です。

前年度より7万5000円、率にすると17.0%上昇しました。

2010年度の調査開始以来、最も高い水準です。

推移を並べると、

・2014年度 27万5000円/㎡
・2024年度 44万2000円/㎡
・2025年度 51万7000円/㎡

となります。

2014年度から2025年度までの11年間で、約1.88倍になった計算です。

仮に、延床面積3万㎡の病院を建てるとします。

1㎡当たり51万7000円を単純に掛けると、建築工事費は約155億1000万円です。

僕が持っていた勝手なイメージの、2倍くらいの金額です。

しかも、この平米単価には設計監理費は含まれますが、土地造成費、既存建物の解体費、仮移転費などは含まれていません。

福祉医療機構の融資先に限った集計であり、全国のすべての建設事例を示す数字ではない点にも注意が必要です。

この水準であれば、

「今は建て替えられない」

「少し待って、価格の動きを見たい」

という判断は自然です。

僕も、建て替えの延期そのものを否定するつもりはありません。

ただ、最新のデータは、「待っていれば安くなる」という前提を支えてはいません。

病院建て替えは、考え始めてから完成までが長い

Instagram投稿では、島田市立総合医療センターの新病院建設を紹介しました。

島田市では、2014年7月に新病院の基本構想を策定しました。

基本計画、基本設計、建設工事を経て、新病院が開設されたのは2021年5月です。

その後も旧病院の解体や外構工事などが続き、事業全体が竣工したのは2023年3月でした。

基本構想の策定から事業全体の竣工まで、約8年8カ月かかっています。

病院建て替えは、

「建物が限界に近づいたので、来年建てよう」

と始められる話ではありません。

地域の将来人口、医療需要、必要病床数、診療機能、建設場所、資金調達、補助金、職員動線などを整理する必要があります。

自治体や医師会、住民を含めた合意形成が必要になることもあります。

建て替えの議論を止めている期間も、建物は古くなります。

そして、再び議論を始めた日から、さらに長い時間がかかるのです。

複数棟の病院は、設備を一体管理しにくい

ところで、僕が勤務している病院は、一度に建設された一つの建物ではありません。

数十年にわたり、必要な機能を追加しながら、建物を育ててきた病院です。

それによって地域医療を支えてきたことは、間違いありません。

一方で、建設年代の異なる複数の建物を使うと、空調、電気、給排水、ボイラー、ポンプなどの設備系統が分散しやすくなります。

使っていない部屋があっても、棟単位で動いている換気設備やポンプを止めにくい。

建物ごとに熱源や制御方式が違えば、病院全体を一つのシステムとして管理することも難しくなります。

ここからは、僕の仮説です。

同じ規模、同じような診療機能の病院を比べるなら、一体的に設計された一棟の病院よりも、建設年代の異なる複数棟を使う病院のほうが、水道光熱費は高くなりやすいのではないか。

比較データで確認した結論ではありません。

僕が日々、病院の建物を見ながら考えていることです。

建て替えの優先順位に、水道光熱費を加える

複数の病院を同じ基準で比較できる法人であれば、水道光熱費の高い病院に、どのような共通点があるのかを調べられます。

ただし、医業収益に対する水道光熱費率だけでは、病床稼働、診療機能、地域の気候、エネルギー単価などの違いも混ざります。

建物そのものの効率を見るなら、延床面積当たりの電気・ガス・水道使用量も、併せて比較したいところです。

そのうえで、

・建物の棟数
・それぞれの建設年代
・空調や熱源の方式
・設備の更新履歴
・延床面積当たりのエネルギー使用量
・今後必要となる修繕費

を並べてみる。

設備が分散した複数棟であることが、修繕費や水道光熱費を押し上げているのであれば、それは築年数とは別の、建て替え優先度を考える材料になると思います。

古い病院から順番に建て替える。

それだけでは、実際に費用がかかっている病院を見落とすかもしれません。

今決めるのは「建てるかどうか」ではない

建築費が高い今、すぐに建て替えを決定できない病院は多いと思います。

それでも、建て替えの議論を続ける仕組みは残しておきたいところです。

少なくとも、次の三つの案を並行して持っておくとよいと思います。

1.現在の建物を大規模改修し、長寿命化する案

空調、受変電設備、給排水、ボイラーなどを順次更新し、現在の複数棟を使い続けます。

新病院を一括して建設するよりも、当初の支出を抑えられる可能性があります。

一方で、古い建物の構造や動線、分散した設備系統は残ります。

2.棟ごとに建て替え、病院機能を集約する案

古い棟から段階的に建て替え、分散している診療機能や設備を集約します。

病院を稼働させながら工事できる可能性がある一方、工期は長くなります。

工事中の仮設動線や、診療への影響も考えなければなりません。

3.新病院を一括して建設する案

現在地または別の場所に、将来の医療需要に合わせた病院を新築します。

建築費は大きくなりますが、病床数、診療機能、職員動線、空調、エネルギー管理を一から設計できます。

僕が大切だと思うのは、現在の病院を、そのまま新しく再現しようとしないことです。

人口減少や医療従事者不足を前提として、地域に必要な機能を、どのくらいの面積で提供するのかを考える。

そのうえで、三つの案について、20年程度の修繕費、水道光熱費、建設費、資金調達、診療への影響を比較します。

その試算を、毎年更新する。

そうすれば、今は建てないという判断をしても、建て替えの議論そのものは残ります。

こあら先生のひとりごと

「今は建てない」と、「もう考えない」は、まったく違います。

参考文献

1.国税庁.
『主な減価償却資産の耐用年数表』
国税庁.
資料はこちら
最終閲覧日 2026年8月28日.

2.田原春滉.
『2025年度 福祉・医療施設の建設費について』
独立行政法人福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループ.
2026;Research Report 2026-002:1-6.
報告書はこちら
最終閲覧日 2026年8月28日.

3.島田市.
『新病院建設事業』
島田市.
島田市のウェブサイトはこちら
最終閲覧日 2026年8月28日.

4.島田市立総合医療センター.
『沿革』
島田市立総合医療センター.
病院の沿革はこちら
最終閲覧日 2026年8月28日.