金曜勉強会で、病院におけるスライド作成について話しました。
テーマは、棒グラフです。
棒グラフというと、数字を入れて、グラフ作成ボタンを押せば完成するように思えます。実際、エクセルやパワーポイントを使えば、数秒でそれらしいグラフはできます。
ただ、病院の会議で使うスライドとしては、それだけでは足りません。
なぜなら、会議で必要なのは「数字が並んでいること」ではなく、「その数字から何を読み取るのか」が伝わることだからです。
グラフ作成ボタンを押しただけでは、伝わらない
たとえば、こあら病院で、過去10年の内科の医業収入を説明するとします。

表には、入院収入、外来収入、合計医業収入が並んでいます。
ここで、そのままグラフ作成ボタンを押すと、入院、外来、合計の3本の棒が並んだグラフになります。

一見、ちゃんとしたグラフです。
しかし、見る側からすると、少し分かりにくい。
入院も増えている。
外来も少し増えている。
合計も増えている。
では、結局何が言いたいのか。
そこがぼやけてしまいます。
合計を消すと、かえって合計が見える
最初にやることは、合計医業収入の棒を消すことです。

合計を消すと、情報が減るように見えます。
しかし、入院と外来を積み上げ棒グラフにすれば、棒全体の高さが合計を表します。つまり、合計という項目を別に出さなくても、全体像は見えるわけです。

むしろ、棒が3本並んでいるより、積み上げ棒にした方が、構造が分かりやすくなります。
目立たせるのは、言いたい部分だけでよい
次に、色を整えます。
今回、言いたいことは「入院収入が増えている」という点です。
であれば、入院を目立つ色にします。
逆に、外来は薄い灰色でよい。
さらに、入院が増えていることを伝えるために、入院を土台にして、基線を揃えています。
「外来」「入院」などの凡例を、上下に並べた工夫も見てください。

これは、外来がどうでもいいという意味ではありません。外来も大事です。
ただ、このスライドで伝えたい主役は入院です。
すべてを同じ強さで見せると、結局どこを見ればよいのか分からなくなります。会議のスライドでは、主役と脇役を決めた方が伝わります。
数字は、必要な場所に直接入れる
グラフを見せるとき、数字を別の表で確認しないと分からない状態は、あまり親切ではありません。
特に病院の会議では、参加者の職種も立場もさまざまです。
医師、看護師、事務、コメディカル、経営側。
全員がグラフを読み慣れているわけではありません。
だからこそ、棒の中に数字を入れておく。
入院収入がどれくらい増えているのか。
外来収入はどの程度なのか。
見た瞬間に分かるようにしておくと、説明が楽になります。
最後は、言いたいことを大きく書く
グラフの仕上げで大事なのは、タイトルです。
「内科医業収入の推移」でも間違いではありません。
ただ、それでは事実の説明で終わります。
今回言いたいことが「入院収入が3.2倍に増えた」なら、そのまま大きく書いた方がよい。
外来は1.5倍。
入院は3.2倍。
こう書くと、見る側はすぐに理解できます。

この10年で何が起きたのか。
どこに変化の中心があったのか。
グラフを見る前に、結論が入ってきます。
病院のスライドは、きれいさよりも判断しやすさ
病院の会議資料で大切なのは、デザインの美しさだけではありません。
もちろん、見た目が整っていることは大事です。
しかし、それ以上に大切なのは、見た人が判断しやすいことです。
この数字から何を読み取るのか。
どこが変化したのか。
次に何を議論すればよいのか。
そこまで導くのが、病院におけるスライド作成だと思います。
グラフは、数字を飾るためのものではありません。
事実を整理し、見る人の理解を助けるための道具です。
そして、会議で使うグラフなら、もう一歩踏み込んでよい。
「私はこの数字を、こう見ています」
そこまで書いて、ようやく伝わるスライドになります。
前提・分析・結論
前提:病院の会議資料では、数字を正確に示すだけでは十分ではありません。見る人が短時間で「何が変わったのか」「何を議論すればよいのか」を理解できる形に整える必要があります。
分析:今回の医業収入の推移では、全体の増加だけでなく、特に入院収入の伸びが大きい点が重要です。そのため、合計を別の棒で見せるのではなく、入院と外来の積み上げ棒にして、入院部分を強調する方が伝わりやすくなります。
結論:棒グラフは、数字を並べるための道具ではなく、見る人の判断を助けるための道具です。病院のスライドでは、「この数字をどう見てほしいのか」まで書き込むことで、会議資料としての力が増します。
秘書ユナのコメント
このスライドで面白いのは、グラフをきれいにしているのではなく、「見る人の視線」を設計しているところです。
最初のグラフでも、数字としては間違っていません。ただ、そのままだと、入院、外来、合計のどこを見ればよいのかが少し分かりにくい。そこから、合計を積み上げ棒の高さで見せ、入院を目立つ色にし、最後に「入院は3.2倍」と大きく書くことで、伝えたいことが一気に明確になります。
病院の会議資料では、正確さだけでなく、読み手の時間を奪わない工夫が必要です。
数字を見せるのではなく、数字から何を考えてほしいのかを示す。
この一手間があるだけで、スライドは単なる資料ではなく、議論を前に進める道具になります。
こあら先生のひとりごと
そもそも論ですが、伝えるべきこと(伝えたいこと)が無ければ、グラフを作る必要はありません。
グラフを作る前に、「この数字で何を言いたいのか」を一度立ち止まって考えることが、いちばん大事なのだと思います。