ESUSでは、なぜDOACに飛びつかないのか

ESUSと診断した脳梗塞で、私は原則として、最初からDOACには寄せません。

画像だけを見ると、塞栓症に見えることがあります。

急に発症している。
病変が多発している。
皮質を巻き込んでいる。

こういう所見を見ると、頭の中では自然に、

「塞栓症なら、抗凝固薬ではないか」

という考えが立ち上がります。

ただ、ここで一歩止まる必要があります。

ESUSは「塞栓症らしい」脳梗塞ではありますが、「心原性脳塞栓症」と同じではありません。
心房細動や明らかな心内血栓が確認できていない段階で、DOACを一律に使うことは、現在のガイドライン上も支持されていません。

私がESUSで重視しているのは、
「塞栓に見えるか」ではなく、
「抗凝固薬を使うだけの根拠が、どこまで積み上がっているか」です。

ESUSとは何か

FACT

ESUSは、Embolic stroke of undetermined source の略です。
日本語では、塞栓源不明の脳塞栓症と訳されます。

画像上は塞栓症らしい。
しかし、通常の評価では明らかな塞栓源が見つからない。

そういう脳梗塞をまとめた概念です。

ここで大事なのは、ESUSは「原因が分かった病名」ではない、という点です。
むしろ、原因がまだ十分には分かっていない状態です。

意見

私はESUSを、診断名というより「保留の箱」に近いものとして見ています。

塞栓症らしい。
しかし、心房細動は見つからない。
明らかな心内血栓もない。
ラクナ梗塞とも言い切れない。
高度狭窄を伴うアテローム血栓性脳梗塞とも断定できない。

その時点で、いったん入る箱です。

つまり、ESUSと書いた瞬間に判断が終わるのではありません。
ここから、もう一段、原因を探しに行く必要があります。

臨床試験とガイドライン

FACT

ESUSに対してDOACを使えば、アスピリンより脳卒中再発を減らせるのではないか。
この仮説を検証した代表的な試験に、NAVIGATE ESUSとRE-SPECT ESUSがあります。

NAVIGATE ESUSでは、リバーロキサバンはアスピリンに対して脳卒中再発予防の優越性を示せず、大出血は増えました。

RE-SPECT ESUSでは、ダビガトランもアスピリンに対して脳卒中再発予防の優越性を示しませんでした。

つまり、ESUS全体を一括してDOACで治療する考え方は、支持されませんでした。

AHA/ASAの脳卒中二次予防ガイドラインでも、ESUSに対する経験的な抗凝固療法は推奨されていません。

国内ガイドラインでも、ESUSに対する抗血栓療法として、アスピリンの妥当性が示されています。少なくとも、ESUS全体に対してDOACを一律に使う治療方針は、代表的な臨床試験の結果からは支持されません。

意見

私はこの部分を、学術的な結論というより、説明責任の境界線として読んでいます。

塞栓っぽいからDOACを始めた。
その後に出血した。
あとから「なぜ抗凝固薬を使ったのか」と問われる。

そのときに支えになるのは、その場の感覚ではありません。
ガイドライン、臨床試験、添付文書、そしてカルテに残された判断過程です。

「塞栓に見えたから」だけでは、説明として弱い。

ここは、かなり意識しています。

私が実際に考えている順番

私がESUSで意識している流れは、シンプルです。

まず抗血小板薬を軸にする。
そのうえで、見落としやすい塞栓源をもう一段掘る。

発作性心房細動は、1回の心電図やホルター心電図では見つからないことがあります。
72時間モニタリングをしても、出ないことはあります。

だから、心原性を完全には捨てません。

左房拡大。
弁膜症。
心筋症の匂い。
心内血栓。
大動脈弓部プラーク。
悪性腫瘍。
卵円孔開存。

このあたりを、患者さんごとに拾い直します。

もう一つ、常に頭に置くのが感染性心内膜炎です。

熱がなくても、完全には否定できません。
経過が不自然なとき、画像が妙に多発しているとき、身体所見や炎症反応に引っかかりがあるときは、血液培養を取ります。

DOACへ移るのは、心原性が見えてきた後

ESUSは、抗凝固薬を使わないための病名ではありません。
一方で、抗凝固薬を使うための病名でもありません。

私の感覚では、

「まだ見つかっていない塞栓源を探し続ける状態」

です。

抗血小板薬でいったん固める。
その間に、心房細動や心臓の異常を探す。
感染性心内膜炎や悪性腫瘍も見落とさない。
そして、心原性が確からしくなった段階で、抗凝固薬へ移る。

この順番を守ることが大事だと思っています。

前提・分析・結論

前提
ESUSは塞栓症らしく見えても、心房細動や心内血栓などの明確な塞栓源が確認できていない状態です。

分析
代表的な臨床試験では、ESUS全体に対するDOACの優越性は示されていません。

結論
ESUSではDOACを一律に開始せず、まず抗血小板薬を軸に、塞栓源検索を続けます。

こあら先生のひとりごと

例えば、リクシアナの添付文書を見てみてください

効能又は効果のところに書いてあるのは、非弁膜症性心房細動、深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、下肢整形外科手術時の静脈血栓塞栓症の予防などです。

「ESUSの再発予防」とは書かれていません

ここは地味ですが、実臨床では大事です。

医師は病態を見て薬を選びます。
ただ、薬には承認された効能又は効果があります。

ガイドラインでも推奨されず、代表試験でも優越性が示されず、添付文書上もESUSそのものが効能効果として明記されていない。
この状態でDOACを選ぶなら、それなりの理由が必要になります。

参考文献

Hart RG, Sharma M, Mundl H, et al.
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New England Journal of Medicine. 2018;378:2191-2201.
論文全文はこちら(NEJM)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1802686
(最終閲覧日:2026年6月24日)

Diener HC, Sacco RL, Easton JD, et al.
Dabigatran for Prevention of Stroke after Embolic Stroke of Undetermined Source.
New England Journal of Medicine. 2019;380:1906-1917.
論文全文はこちら(NEJM)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1813959
(最終閲覧日:2026年6月24日)

Kleindorfer DO, Towfighi A, Chaturvedi S, et al.
2021 Guideline for the Prevention of Stroke in Patients With Stroke and Transient Ischemic Attack: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association.
Stroke. 2021;52:e364-e467.
ガイドライン全文はこちら(AHA Journals)
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STR.0000000000000375
(最終閲覧日:2026年6月24日)

四條 克倫.
診療ガイドライン最新事情シリーズ 脳卒中ガイドライン 2021(改訂 2023).
日大医学雑誌.2023;82(6):325-332.
論文全文はこちら(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/82/6/82_325/_article/-char/ja/
(最終閲覧日:2026年6月24日)

リクシアナ錠15mg/リクシアナ錠30mg/リクシアナ錠60mg 添付文書.
第一三共株式会社.
添付文書はこちら(PMDA)
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/3339002F3022?user=1
(最終閲覧日:2026年6月24日)