血液ガスは、最初から全部読もうとしない
血液ガス検査は、苦手に感じる人が多い検査です。
pH、PaO2、PaCO2、HCO3、BE、乳酸、電解質、血糖値。
いろいろな数字が並んでいるので、最初から全部を読もうとすると、かえって分からなくなります。
僕が血液ガスを読むときは、最初に見る数字を絞ります。
まず見るのは、3つです。
pH。
PaCO2。
HCO3。
この3つを見るだけでも、だいぶ整理しやすくなります。
まず覚える基準値
以下の数字は覚えています。
検査の機械から出てくるあの細い紙には、基準値は書いてないですから。
pHは、7.4。
PaCO2は、40。
HCO3は、24。
pHは、体が酸性に傾いているのか、アルカリ性に傾いているのかを見ます。
PaCO2は、呼吸の数字です。
二酸化炭素が増えると、体は酸性に傾きます。
HCO3(重炭酸イオン)は、代謝の数字です。
重炭酸が減ると、体は酸性に傾きます。
細かい式を覚える前に、まずはこの感覚を持つことが大切だと思います。
読む順番は3つ
僕は、血液ガスを読むときに、次の順番で考えています。
①アシドーシスなのか、アルカローシスなのか。
②呼吸性の変化なのか、代謝性の変化なのか。
③体で何が起きているのか。
この順番で読むと、数字を追いかけるだけでなく、患者さんの体の中で起きていることが見えやすくなります。
症例1 喘息発作でPaCO2が上がっている
38歳女性。喘息発作で来院しました。
pH 7.26。
PaCO2 57。
HCO3 25。
まず、pHが7.4より低いので、アシドーシスです。
次に、PaCO2が57と高くなっています。
二酸化炭素がたまって、体が酸性に傾いています。
つまり、呼吸性アシドーシスです。
喘息発作で気管支が細くなり、十分に換気できなくなると、二酸化炭素が体にたまります。
喘息でPaCO2が上がってくるのは、呼吸がうまくできていないサインです。
ただ息が苦しいだけではなく、呼吸が疲れてきていないかを見る場面です。
症例2 過換気でPaCO2が下がっている
24歳女性。四肢のしびれと呼吸苦で来院しました。
pH 7.55。
PaCO2 27。
HCO3 23。
pHが7.4より高いので、アルカローシスです。
PaCO2は27と低くなっています。
二酸化炭素が体から出ていき、酸が減った状態です。
つまり、呼吸性アルカローシスです。
過換気では、換気量が増えます。
吸ったり吐いたりする量が増えると、二酸化炭素が抜けていきます。
その結果、体はアルカリ性に傾きます。
呼吸が速い患者さんを見たとき、ただ「苦しそう」と見るだけではなく、PaCO2が下がっている可能性を考えると、血液ガスの見え方が変わります。
症例3 下痢でHCO3が下がっている
25歳男性。海外から帰国後、ひどい下痢で来院しました。
pH 7.23。
PaCO2 22。
HCO3 9。
pHが低いので、アシドーシスです。
ここで目立つのは、HCO3が9まで下がっていることです。
HCO3は、体をアルカリ側に保つ成分です。
これが大きく減ると、体は酸性に傾きます。
つまり、代謝性アシドーシスです。
下痢では、HCO3を含む腸液を大量に失うことがあります。
その結果、重炭酸が減り、代謝性アシドーシスになります。
この症例ではPaCO2も低くなっています。
これは、体が酸性に傾いたため、呼吸を速くして二酸化炭素を減らし、なんとか中和しようとしている反応です。
主役はHCO3の低下。
PaCO2の低下は、代償と考えると整理しやすくなります。
症例4 糖尿病性ケトアシドーシスでは、血糖も見る
68歳男性。意識障害で来院しました。
pH 7.29。
PaCO2 25。
HCO3 12。
血糖 785。
pHが低いので、アシドーシスです。
HCO3が12と低くなっています。
したがって、代謝性アシドーシスです。
この症例では、血糖値が785と著明に高値です。
糖尿病性ケトアシドーシスを考える状況です。
インスリンが不足すると、体は糖をうまく使えません。
その代わりに脂肪を分解し、ケトン体が増えます。
ケトン体は酸なので、体は酸性に傾きます。
その酸を中和するためにHCO3が使われ、HCO3が下がっていきます。
このとき、呼吸は速くなります。
二酸化炭素を減らして、酸性に傾いた体を少しでも戻そうとするためです。
血液ガスの結果には、血糖値やナトリウム、カリウムが出ていることもあります。
意識障害の患者さんでは、血液ガスに載っている血糖値を見ることで、診断の方向づけになることがあります。
症例5 重症筋無力症では、慢性の呼吸性アシドーシスを考える
35歳男性。重症筋無力症の患者さんです。
pH 7.32。
PaCO2 69。
HCO3 34。
pHが7.4より低いので、アシドーシスです。
PaCO2が69と高くなっています。
二酸化炭素がたまっているので、呼吸性アシドーシスです。
重症筋無力症では、呼吸筋が弱くなることがあります。
換気量が減ると、二酸化炭素を十分に吐き出せません。
この症例では、HCO3も34と高くなっています。
急に二酸化炭素がたまっただけなら、HCO3はここまで上がりません。
時間をかけて腎臓が補正していると考えると、慢性の呼吸性アシドーシスとして理解しやすくなります。
血液ガスで迷ったら、主役と代償を分ける
血液ガスで迷うのは、複数の数字が同時に動いているときです。
PaCO2も動いている。
HCO3も動いている。
このときは、主役と代償を分けて考えます。
pHがどちらに傾いているのか。
その傾きを説明する主役は、PaCO2なのか、HCO3なのか。
残りの変化は、体が補正しようとしている反応なのか。
この順番で見ると、血液ガスはかなり読みやすくなります。
前提・分析・結論
前提。
血液ガスは、まずpH、PaCO2、HCO3の3つを見る。
分析。
pHでアシドーシスかアルカローシスかを判断し、PaCO2とHCO3で呼吸性か代謝性かを考える。
結論。
血液ガスは、数字を全部暗記する検査ではなく、患者さんの呼吸と代謝を順番に読む検査である。
こあら先生のひとりごと
いろいろ書きましたが、血液ガス検査は、それだけで診断を決める検査ではありません。
病歴、症状、バイタル、身体所見、画像検査などと並べて見たときに、患者さんの体で起きていることを、もう一段深く教えてくれる検査だと思います。