腎機能を見るとき、多くの医療者が最初に見るのは eGFR です。
数字が一つで出る。
経時的な変化も追いやすい。
電子カルテでも、まず目に入ります。
ただ、CKD診療ガイドライン2023を読み直していて、ここは何度でも立ち止まった方がよいと思いました。
CKDの重症度分類は、eGFRだけで作られていません。
eGFRと尿蛋白、あるいはアルブミン尿を組み合わせて、腎予後、心血管イベント、死亡リスクを見ています。
つまり、eGFRが同じでも、尿蛋白が多い患者さんは同じリスクではありません。
ここを見落とすと、CKD診療は少し粗くなります。
僕の現場感覚としては、eGFRを見て安心してしまう場面ほど、尿蛋白を確認した方がよい。そう思っています。
eGFRは見やすいが、尿蛋白は見逃されやすい
eGFRは便利です。
クレアチニンを測れば自動で表示されます。
前回との比較もしやすい。
患者さんにも「腎機能は何%くらいです」と説明しやすい数字です。
一方で、尿蛋白は少し扱いが雑になりやすい検査です。
尿定性だけで終わる。
尿蛋白定量まで進まない。
糖尿病がなければ尿アルブミンを意識しない。
あるいは、そもそも外来で尿検査を出していない。
こういうことは、たぶん珍しくありません。
でも、CKDの重症度分類を眺めると、尿蛋白・アルブミン尿は単なる添え物ではありません。
リスクを分ける横軸そのものです。
同じG3aでも、A1とA3では意味が違う。
同じG3bでも、尿蛋白が少ない人と多い人を、同じ感覚で見てはいけない。
ここが、ガイドラインの図が静かに伝えていることだと思います。
尿蛋白を測ると、診療の見え方が変わる
尿蛋白を測る意味は、単に分類を埋めることではありません。
その患者さんの腎臓が、今どのくらい危ない状態にあるのか。
今の治療で本当に足りているのか。
腎臓内科に紹介するタイミングなのか。
血圧、糖尿病、薬剤、生活指導をどの程度強く見直すべきなのか。
そういう判断の解像度が変わります。
実際の診察室では、eGFRが少し低いだけの人より、尿蛋白がしっかり出ている人の方が気になります。
もちろん、eGFRも大切です。
そこを軽く見てよいという話ではありません。
ただ、eGFRだけを見て「まだ大丈夫」と判断するのは危ない。
尿蛋白が多ければ、その人はすでに別のステージにいる可能性があります。
治療の選択肢も変わってきた
昔であれば、尿蛋白が多いと分かっても、できることは限られているように感じたかもしれません。
血圧を下げる。
糖尿病をきちんと診る。
ARBやACE阻害薬を考える。
塩分を控える。
もちろん、これらは今でも基本です。
ただ、現在はそこにSGLT2阻害薬という選択肢が加わっています。CKD診療ガイドライン2023では、糖尿病を合併しないCKDでも、蛋白尿を有する場合にはSGLT2阻害薬による腎機能低下の進展抑制などが期待できるため、投与が推奨されています。
実臨床では、ダパグリフロジンやエンパグリフロジンなどが選択肢になります。
ただし、ここは雑に広げてはいけません。
適応、eGFR、脱水リスク、尿路感染、食事摂取量、併用薬。
患者さんごとに確認することはあります。
それでも、尿蛋白があるCKDを見たときに、SGLT2阻害薬を検討の外に置く理由は、以前よりかなり少なくなりました。
尿蛋白を測ることは、単なるリスク分類ではない。
次の治療を考える入口でもあります。
コーヒーの話は、少しだけ慎重に扱う
CKD診療ガイドライン2023には、コーヒー摂取についての記載もあります。
この部分は、僕としては、少しうれしくなる話です。
日常生活の中で、患者さんにも伝えやすい。
ただ、ここは大げさに言わない方がよいと思います。
「コーヒーを飲めば腎臓が良くなる」と言ってしまうと、話がずれます。
あくまで、生活習慣全体の中で、過度に制限する必要はなさそうだ、という程度に受け止めるのが自然です。
患者さんに伝えるなら、僕ならこう言います。
「腎臓のために、何でも我慢しなければいけないわけではありません。コーヒーも、飲み方が極端でなければ、過度に怖がらなくてよいと思います」
このくらいが、臨床の言葉としてはちょうどよい気がします。
eGFRだけを見る診療から、尿蛋白も見る診療へ
CKD診療では、eGFRを見ないわけにはいきません。
ただ、eGFRだけでは足りません。
同じeGFRでも、尿蛋白があるかどうかで、将来の見通しは変わります。
腎臓内科への紹介の温度も変わります。
治療選択も変わってきます。
だから、尿蛋白を測る。
必要なら定量する。
糖尿病があれば尿アルブミンも意識する。
それだけで、CKD診療は一段、細かくなります。
地味ですが、大事です。
こういう地味な検査を飛ばさないことが、結局は患者さんの将来を変えるのだと思います。

前提・分析・結論
前提
CKD診療では、eGFRが最も目に入りやすく、診療判断の中心になりやすい。
分析
CKDのリスク評価はeGFR単独ではなく、尿蛋白・アルブミン尿と組み合わせて行う。尿蛋白を見ないままでは、腎予後や心血管リスクの高い患者さんを低く見積もる可能性がある。
結論
CKD診療では、eGFRだけで安心しない。尿蛋白を測り、必要に応じて定量し、その結果を治療選択と専門医紹介の判断につなげる。
秘書ユナのコメント
CKD診療で大切なのは、eGFRの数字を見て終わらないことです。
eGFRは分かりやすい指標ですが、尿蛋白は患者さんの将来を映す重要な情報です。
特に、同じeGFRでも尿蛋白が多い患者さんは、同じようには扱えません。
若手医療者の方は、CKDの患者さんを見たときに、まず一度だけ立ち止まってみてください。
「この人の尿蛋白は、どうなっているだろうか」
この一手間で、診療の見え方はかなり変わります。
こあら先生のひとりごと
SGLT2阻害薬が出てきて、尿検査の重要性が上がったと思います。
参考文献
日本腎臓学会.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.日本腎臓学会.
ガイドライン全文はこちら(日本腎臓学会)
最終閲覧日:2026年5月23日