入院中の患者さんが、急に発熱することがあります。

肺炎で入院している患者さんが、治療中に38.5℃の熱を出した。
尿路感染症で入院している患者さんが、いったん落ち着いたあとに、また熱を出した。

病棟では、よくある場面です。

このとき、まず大切なのは、重症かどうかを見ることです。

呼吸回数が多い。
意識が悪い。
血圧が低い。
脈が速い。

こうした所見があれば、急いで対応する必要があります。

ただ、今回書きたいのは、その次の話です。

発熱の原因は何か。

入院患者さんが発熱したとき、私は看護師さんから3つのことを教えてもらえると、とても助かります。

下痢してる?
関節腫れてる?
皮膚発赤ある?

この3つです。

なぜなら、この3つが、そのまま診断と治療につながるからです。

下痢があれば、偽膜性腸炎を考えます。
関節が腫れていれば、偽痛風を考えます。
皮膚が赤ければ、蜂窩織炎を考えます。

どれも、入院患者さんでよく経験する発熱原因です。
そして、どれも、肺炎や尿路感染症とは治療が違います。

下痢があれば、偽膜性腸炎を考える

入院中の患者さんが発熱して、同時に下痢がある。

このときに考えたいのが、偽膜性腸炎です。
現在では、C.difficile感染症として考えることが多い病気です。

入院中の患者さんは、抗菌薬を使っていることがあります。
抗菌薬によって腸内細菌のバランスが崩れると、C.difficileが増えて、下痢や発熱を起こすことがあります。

ここで大切なのは、発熱しているからといって、単純に抗菌薬を追加すればよいわけではない、ということです。

偽膜性腸炎では、原因になっている抗菌薬を中止できるかどうかを考えます。
また、バンコマイシン内服などを考えます。

発熱している。
下痢がある。
抗菌薬を使っている。

この組み合わせでは、偽膜性腸炎を思い出したいところです。

関節が腫れていれば、偽痛風を考える

高齢の入院患者さんが、急に発熱する。
よく見ると、膝が腫れている。
手首が腫れている。
足首が熱を持っている。

このときに考えたいのが、偽痛風です。

偽痛風は、ピロリン酸カルシウム結晶が関節に沈着して起こる病気です。
医学的には、ピロリン酸カルシウム沈着症、CPPDとも呼ばれます。

高齢者に多く、脱水、感染、外傷、手術、入院中の体調変化などをきっかけに起こることがあります。

好発部位は、膝関節、手関節、足関節です。
ただ、私は肩関節の偽痛風も経験しています。

「肩を痛がっている」
「腕を動かしたがらない」
「寝返りのときに顔をしかめる」

こうした情報も、診断の入口になります。

膝関節であれば、内科医でも関節穿刺を行えることがあります。
関節液を確認すると、ピロリン酸カルシウム結晶が見つかることがあります。

偽痛風では、アセトアミノフェンだけでは不十分なことがあります。
関節の炎症を抑える治療が必要になるからです。

その代表が、NSAIDsです。

つまり、NSAIDs内服は、単なる対症療法ではありません。
偽痛風に対する治療です。

もちろん、高齢者では腎機能低下、胃潰瘍、心不全、抗凝固薬内服などがあります。
実際には、腎機能や出血リスクを見ながら慎重に使います。

なお、頸椎の環軸関節付近にピロリン酸カルシウムが沈着して、発熱や強い頸部痛を起こすことがあります。
これが、クラウンデンス症候群です。

皮膚が赤ければ、蜂窩織炎を考える

入院患者さんが発熱している。
肺炎が悪くなったのかと思って胸部画像を見る。
尿路感染症を考えて尿検査を見る。

それでも、原因がはっきりしない。

こういうときに、足を見ると、下腿が赤く腫れていることがあります。
これが蜂窩織炎です。

蜂窩織炎は、皮膚と皮下組織の感染症です。
主な起因菌は、連鎖球菌と黄色ブドウ球菌です。

治療では、セファゾリンなどを使うことがあります。

肺炎で入院している患者さんが発熱した。
だから肺炎が悪化した。

そうとは限りません。

足が赤い。
熱を持っている。
左右差がある。
押すと痛がる。

こうした情報があると、診断の方向が大きく変わります。

特に高齢の患者さんでは、自分から「足が痛い」とは言わないことがあります。
だから、普段から全身を見ている看護師さんの観察が、とても大きな意味を持ちます。

この3つは、見た目が診断の入口になる

入院患者さんの発熱では、血液検査やCTに意識が向きがちです。

もちろん、それらは大切です。

肺炎の悪化。
尿路感染症。
胆道感染。
カテーテル感染。
深部膿瘍。
血流感染。

こうした病気を考える場面は多くあります。

ただ、偽膜性腸炎、偽痛風、蜂窩織炎は、検査だけでは気づきにくいことがあります。

偽膜性腸炎は、便の情報がなければ疑いにくい。
偽痛風は、関節を見なければ気づきにくい。
蜂窩織炎は、皮膚を見なければ分かりません。

入口は、見た目です。

下痢しているか。
関節が腫れているか。
皮膚が赤いか。

これは、患者さんのそばにいる人が一番気づきやすい情報です。

「ある」だけでなく、「ない」も大事

医師に報告するときは、「あります」だけが大事なのではありません。

下痢はありません。
関節の腫れはありません。
皮膚発赤はありません。

この「ない」という情報も、とても助かります。

たとえば、次のように伝えてもらえると、医師はかなり考えやすくなります。

「38.5℃の発熱があります。呼吸回数は20回、血圧は保たれています。意識は普段と変わりません。下痢はありません。膝や手首の腫れはなさそうです。皮膚発赤も見える範囲ではありません」

逆に、

「発熱があります。下痢もあります」
「発熱があります。右膝が腫れています」
「発熱があります。左下腿が赤く腫れています」

こういう報告なら、次に考えることがかなり具体的になります。

観察が治療を変える

下痢、関節腫脹、皮膚発赤。

これは、単なる観察項目ではありません。
治療方針を変える情報です。

下痢があれば、偽膜性腸炎を考えて、抗菌薬を見直すかもしれません。
関節が腫れていれば、偽痛風を考えて、NSAIDs内服を検討するかもしれません。
皮膚が赤ければ、蜂窩織炎を考えて、セファゾリン点滴を選ぶかもしれません。

だから、入院患者さんが発熱したときには、体温だけではなく、全身を見たいのです。

下痢はどうか。
関節は腫れていないか。
皮膚は赤くなっていないか。

この3つを見てくれるだけで、診療は一歩前に進みます。

前提・分析・結論

前提
入院患者さんの発熱では、まず重症度を確認し、そのうえで発熱の原因を考える必要があります。

分析
偽膜性腸炎、偽痛風、蜂窩織炎は、検査だけでは見つけにくく、下痢、関節腫脹、皮膚発赤というベッドサイドの観察が診断の入口になります。

結論
入院患者さんが発熱したときは、下痢・関節の腫れ・皮膚の赤みを確認して医師へ伝えることで、診断と治療を早く正しい方向へ進めることができます。

秘書ユナのコメント

入院患者さんの発熱では、検査を出す前に、まず患者さんの全身を見ることが大切です。

下痢、関節の腫れ、皮膚の赤み。

この3つは、看護師さんが日々のケアの中で気づきやすく、しかも医師の診断や治療方針を大きく変える情報です。

「ある」だけでなく、「ない」と伝えることにも意味があります。

発熱時の報告では、体温だけでなく、この3つを一緒に確認しておくと、診療が一歩進みやすくなります。

こあら先生のひとりごと

85歳の、肺炎で入院して5日目の患者さんが、発熱したとします。病室に行くわけですが、可能なら電話をしてくれた看護師さんといっしょに行きます。

まずは、見た目で「呼吸回数」をチェックします。ハアハアしている人は重症ですからね。

次に、話しかけます。反応が普段より悪ければ重症です。そして、患者さんに聞くのは「どこか痛いところはありますか?」です。特に「お腹は痛いですか?」は、具体的に聞くようにしています。コミュニケーションが十分とれる患者さんなら「熱以外に何かありますか?」と聞きます。

その後、両膝・両足首・両手首・両肘・両肩の、腫脹・発赤・熱感などをチェックします。どこかが腫れて痛ければ、偽痛風を考えます。偽痛風は見た目診断です。ちなみに、膝の色がレース状に赤紫になっていたら重症ですので、看護師さんに「Mottling sign があるから要注意です」みたいな話をします。

さらに、背部を含めた全身の皮膚をチェックして、蜂窩織炎を探します。蜂窩織炎も見た目診断です。言い換えれば、見ないと一生診断できません。

そして、床頭台のところに掛けてある、食事量や排せつの様子を書いた紙を見ます。下痢があれば偽膜性腸炎を疑って、便CDトキシン検査を行います。