76歳の男性が、健診で貧血を指摘されて来院しました。
Hbは8.8g/dL、フェリチンは7.1ng/mL。鉄欠乏性貧血と考えるデータです。
胃カメラでは、慢性萎縮性胃炎。大腸カメラでは軽い痔があるものの、貧血を説明できるような出血源は見つかりませんでした。便潜血も2回とも陰性です。
こういうとき、次に何を調べるか、少し手が止まります。
小腸の病変も気になりますが、もう一つ、確認しておきたいものがあります。ピロリ菌(Helicobacter pylori)の感染です。
出血源が見つからなくても、原因の評価は続く
成人男性や閉経後の女性で鉄欠乏性貧血をみたら、消化管出血の評価は大切です。胃や大腸の病変を調べるのは、そのためです(参考文献1)。
ただ、便潜血が陰性でも、消化管の病変を否定しきれるわけではありません。胃と大腸の内視鏡で原因が見つからなかった場合も、小腸の病変などが残ることはあります(参考文献2)。
ここで分かったのは、「今回の検査では、明らかな出血源が見つからなかった」ということです。
食事から十分な鉄を摂れているか。出血に関わる薬を使っていないか。尿路など、消化管以外からの出血はないか。
そうした確認とともに、鉄を吸収しにくくする要因にも目を向けたいと思います。
萎縮性胃炎が、鉄の吸収に関わることがある
ピロリ菌感染による胃炎が進み、胃粘膜の萎縮や胃酸分泌の低下を伴うと、食事中の鉄を吸収しにくくなることがあります(参考文献2)。
胃カメラの結果が「萎縮性胃炎だけ」だったとしても、鉄欠乏を考えるうえでは、意味のある所見かもしれません。
ただし、萎縮性胃炎があるだけで、現在もピロリ菌に感染しているとは決められません。過去に除菌していることもあります。まず、除菌歴と感染の有無を確かめます。
ピロリ菌感染と鉄欠乏性貧血の関連は、観察研究をまとめた解析でも報告されています。ただ、関連があるということと、目の前の患者さんの貧血がピロリ菌によるものだということは、分けて考える必要があります(参考文献3)。
ほかの原因が重なっている可能性も残ります。
原因が分からないときは、感染を確認する
米国消化器病学会(AGA)のガイドラインでは、胃と大腸の内視鏡を行っても原因が特定できない鉄欠乏性貧血に対し、内視鏡を使わない方法でピロリ菌感染を調べ、陽性なら治療することを提案しています(参考文献1)。
検査には、尿素呼気試験や便中抗原検査などがあります。
血液の抗体検査は、過去の感染でも陽性が残ることがあります。日本ヘリコバクター学会の2024年改訂版ガイドラインでも、抗体陽性だけを根拠に除菌を始めることは勧めていません(参考文献4)。
検査前の薬にも注意が必要です。
例えば尿素呼気試験は、胃酸分泌を抑える薬や抗菌薬の影響で、感染していても陰性になることがあります。検査の種類に応じて、服薬状況と休薬の必要性を確認します(参考文献4)。
「以前、ピロリ菌は陰性だった」という情報も、いつ、どの方法で調べたのかまで分かると、判断しやすくなります。
除菌を考えながら、鉄欠乏そのものも治療する
感染が確認できたら、全身状態や併用薬を確認して除菌を検討します。
そのとき、鉄補充も進めます。除菌だけで貧血が改善するのを待つ、という組み立てにはしません。
鉄剤と除菌の併用を検討したメタ解析では、鉄剤単独と比べて、除菌を併用した群でフェリチンの改善が認められました。ただし、Hbの改善には統計学的に明確な差が確認されませんでした(参考文献3)。
除菌は検討したい。ただ、貧血が改善するかどうかは、経過を見て判断します。
治療後には、二つのことを確かめます。
一つは、除菌に成功したかどうか。原則として、除菌薬の終了から少なくとも4週間あけ、適切な条件で尿素呼気試験や便中抗原検査による判定を行います(参考文献4)。
もう一つは、鉄補充によって貧血が改善しているかどうかです。内服鉄剤を始めた場合は、通常2〜4週間程度でHbの反応を確認し、その後の鉄の回復も追います(参考文献2)。
除菌判定と貧血の経過は、それぞれ確認する必要があります。
小腸の検査を考えるタイミング
胃と大腸に原因が見つからなかったからといって、全員がすぐに小腸の検査へ進むわけではありません。
AGAは、無症状で複雑な合併症のない患者さんでは、胃と大腸の内視鏡が陰性だったあと、一律にカプセル内視鏡を行うよりも、まず鉄補充を試すことを提案しています(参考文献1)。
経過が落ち着いている方なら、ピロリ菌の評価と必要な治療を行い、鉄剤への反応を確認する、という進め方ができます。
ただ、十分に鉄を補っても改善しない場合や、いったん改善しても再発する場合は、評価を進めます。英国消化器病学会(BSG)のガイドラインでも、質の確保された上下部内視鏡が陰性で、鉄補充への反応が不十分、または貧血が再発する場合には、小腸と尿路の追加評価を勧めています(参考文献2)。
貧血が進行している、明らかな出血がある、体重が減っている。そうした場合も、除菌の効果を待つだけにはできません。
高齢の患者さんでは、追加検査で何が分かり、それが治療をどう変えるのか。検査を受ける負担と合わせて、ご本人と相談したいと思います。
こあら先生のひとりごと
86歳の女性、鉄欠乏性貧血。
がんばって胃カメラをやって、出血源が見つからない。もっとがんばって大腸内視鏡検査もやって、やはり見つからない。
このとき、「遠くの大きな病院に行って、小腸も調べてもらいましょう」と、すぐに言えるのかという話です。
ピロリ菌感染が確認できて、貧血の経過が落ち着いているなら、鉄補充と除菌を進めて、反応をみるという相談もできます。
患者さんにとって、「それならやってみようかな」と思える選択肢は、持っておきたいです。
参考文献
1.American Gastroenterological Association.Gastrointestinal evaluation of iron deficiency anemia.2020年.
2.Snook Jほか.British Society of Gastroenterology guidelines for the management of iron deficiency anaemia in adults.Gut.2021年.
3.Hudak Lほか.An updated systematic review and meta-analysis on the association between Helicobacter pylori infection and iron deficiency anemia.Helicobacter.2017年.
4.Isomoto Hほか.Guidelines for the management of Helicobacter pylori infection in Japan:2024 revised edition.Journal of Gastroenterology.2026年.
最終確認日:2026年10月3日