病院で長く働いていると、組織というものについて考える機会が増える。

自分では当たり前だと思っていることが、他の人には当たり前ではない。仕事の進め方も、判断の速さも、問題に対する関心も、人によってずいぶん違う。

若い頃は、そうした違いをなかなか受け入れられなかった。自分にできることなら、他の人にもできるはずだと考えていたのだと思う。

今でも、思うように仕事が進まず、もどかしく感じることはある。

そんなとき、頭に浮かぶ言葉がある。

「ここはマッキンゼーじゃないんだから」

マッキンゼーは、世界中から優秀な人材を集めるコンサルティング会社である。経営者に助言する仕事なら、極端な話、1人の極めて優秀な人間が大きな価値を生み出すこともできる。AIの進歩によって、その可能性はさらに広がっていくだろう。

しかし、病院は違う。

どれほど優秀な人間がいても、その人だけで医療を提供することはできない。専門性も役割も異なる大勢の人が、それぞれの仕事を担うことで、初めて病院は機能する。

人が大勢集まれば、能力にも経験にも違いがある。それは当然のことで、誰かを責めるような話ではない。

もう一つ、思い出す言葉がある。

「ここはキーエンスじゃないんだから」

キーエンスは、高い給与水準で知られる企業である。優秀な人材を集め、高い成果を求め、それに見合う報酬を支払っている。

病院は、そうした報酬体系を持つ組織ではない。

高い給与を支払っているわけでもないのに、仕事の質だけは際限なく高めたいと考える。それは、少々虫がよすぎるのかもしれない。

そして、最近はもう一つ考えることがある。

僕が周囲の職員に期待しているように、周囲の職員も僕に何かを期待しているのだろう。

もっと早く判断してほしい。もっと現場の事情を理解してほしい。もっと働きやすい病院にしてほしい。

そう思われていても不思議ではない。

僕自身も、周囲の期待に十分応えられているとは限らないのである。

長く仕事をしてきたが、人に何を期待するかというのは、なかなか難しいものだと思う。

それでも、病院は毎日動いている。

「ここはマッキンゼーじゃないんだから。キーエンスでもないんだから」

最近は、この2つの言葉を、自分自身に言い聞かせている。