抗菌薬の種類は多い。
一般名だけでも覚えるのが大変なのに、商品名まで加わる。若い医師や看護師にとって、抗菌薬の勉強はなかなか厄介なものだと思う。
私は内科病棟で使用する抗菌薬を説明するとき、まず5つに絞って考えることがある。
アンピシリン/スルバクタム、セフメタゾール、セフトリアキソン、バンコマイシン、メロペネム。
この5つの使い分けが理解できれば、一般内科の病棟で行われている抗菌薬治療のかなりの部分が見えてくる。
① アンピシリン/スルバクタム
商品名はユナシン、ユナスピンなど。
誤嚥性肺炎などでよく使用する抗菌薬である。口腔内の細菌を広くカバーし、嫌気性菌にも効果がある。
ただし、誤嚥したという理由だけで嫌気性菌をカバーする必要があるわけではない。
患者の背景や肺炎の病態を考えて選択する。
② セフメタゾール
商品名はセフメタゾンなど。
私が大腸憩室炎などの腹腔内感染症で使うことのある抗菌薬である。
腸管由来のグラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーできる。
大腸憩室炎では、抗菌薬の選択だけでなく、膿瘍や穿孔がないかを画像で確認することも大切になる。軽症の単純性憩室炎では、抗菌薬を使用しない選択もある。
③ セフトリアキソン
商品名はロセフィンなど。
市中肺炎や尿路感染症でよく使用している。
1日1回投与できることが多く、腎機能が低下した患者でも比較的使いやすい。私にとっては、使い勝手のよい抗菌薬の一つである。
ただし、緑膿菌には効果がなく、高度の腎機能障害では投与量にも注意が必要になる。
④ バンコマイシン
MRSA感染症を疑うときに使用する抗菌薬である。
培養結果が判明する前から投与を開始することもあるが、結果が出たら本当にMRSAが原因菌なのかを確認したい。
培養からMRSAが検出されたからといって、必ずしも治療が必要な感染症とは限らない。
また、血中濃度を測定し、腎機能にも注意しながら使用する薬である。
⑤ メロペネム
商品名はメロペンなど。
緑膿菌やESBL産生菌などを考えるときに選択肢となる、非常に広い抗菌スペクトラムを持つ薬である。
例えば慢性呼吸器疾患の患者に肺炎が起きた場合、過去の喀痰培養で緑膿菌が検出されていないか、最近どのような抗菌薬が使用されていたかを確認する。
重症患者で使用する機会もあるが、重症だからという理由だけでメロペネムを選択するわけではない。
広域抗菌薬を開始した場合には、培養結果や臨床経過を見て、より狭い抗菌薬に変更できないかを考える。
こうして5つを並べてみると、それぞれの抗菌薬には役割があることがわかる。
私が若い医師に伝えたいのは、抗菌薬の名前をたくさん覚えることではない。
どこに感染が起きているのか。どのような細菌が原因なのか。そして、どこまでの細菌をカバーする必要があるのか。
その判断が先にあって、抗菌薬の名前が決まる。
病棟で抗菌薬が処方されていたら、「この薬は何に効くのか」だけでなく、「この患者に、なぜこの薬を選んだのか」と考えてみてほしい。
そして、若い医師や看護師からその理由を聞かれたとき、私自身もきちんと説明できる医師でありたいと思っている。