療養病棟の寝たきり患者さんで、足がむくんでいなければ、心不全は考えなくてよいのでしょうか。
答えは、そうとは限りません。
長時間ベッド上で過ごしている患者さんでは、浮腫が足ではなく、仙骨部や腰、背中などに目立つことがあります。
医師が回診で見るのは、顔と手足が中心です。
患者さんを起こしたり、背中まで確認したりすることは、毎回できるわけではありません。そのため、寝たきり患者さんの浮腫は、日常的に体位変換や清拭をしている看護師さんの方が先に気づくことがあります。
「昨日より背中がむくんでいる気がする」
その一言が、心不全の診断につながるかもしれません。
(1)寝たきり患者では、浮腫の場所が変わる
歩いて生活している患者さんでは、浮腫は足首や下腿に目立つことが多いです。
靴下の跡が深くなる。
靴がきつくなる。
夕方になると足がむくむ。
こうした変化が、心不全や体液貯留に気づくきっかけになります。
一方で、寝たきりの患者さんでは少し事情が違います。
長時間、仰向けで過ごしていると、重力の影響を受けて、仙骨部や腰、背中などの体の下側に浮腫が目立つことがあります。
下腿に浮腫がないからといって、体液貯留を否定することはできません。
おむつ交換や体位変換、清拭のときに、
「腰のあたりが腫れぼったい」
「背中を押すと跡が残る」
「以前より皮膚が張っている」
と感じた場合は、患者さん全体の状態を確認してみる価値があります。
(2)心不全は、息切れだけで始まるとは限らない
心不全というと、強い呼吸困難を思い浮かべるかもしれません。
確かに、心不全では息切れや呼吸困難がよくみられます。
ただし、高齢者や活動量の少ない患者さんでは、「動いたときの息切れ」が分かりにくいことがあります。
そもそも歩かないため、労作時呼吸困難が表に出ません。
その代わりに、
呼吸数が増える
会話の途中で息継ぎが増える
食事中に苦しそうになる
横になると咳が出る
夜間に落ち着かず、上半身を起こしたがる
といった変化として現れることがあります。
酸素飽和度が大きく低下していなくても、以前より呼吸が速い、息づかいが浅いという変化は軽視できません。
大切なのは、正常値か異常値かだけではなく、昨日までとの違いです。
(3)「なんとなく元気がない」も変化のひとつ
心不全の患者さんが、必ず「息苦しい」と訴えるわけではありません。
高齢者では、
食事量が減る
動作が遅くなる
会話が少なくなる
眠っている時間が増える
リハビリに参加できなくなる
いつもより疲れやすそうに見える
といった、はっきりしない変化が前面に出ることがあります。
もちろん、こうした症状は心不全に特有ではありません。
感染症、脱水、貧血、薬剤の影響、腎機能の悪化など、ほかの原因でも起こります。
それでも、浮腫や体重増加、呼吸状態の変化が重なっていれば、心不全を鑑別に挙げる理由になります。
「なんとなく元気がない」だけでは、医師も判断に迷います。
しかし、
「3日前から食事量が半分になり、呼吸数が増え、背中の浮腫も目立っています」
と報告されれば、受け取る情報の意味は大きく変わります。
(4)心不全を疑ったときに確認したいこと
心不全を疑ったときは、症状をひとつずつ見るより、変化を組み合わせて考えます。
確認したいのは、次のような項目です。
呼吸数は増えていないか
安静時にも息苦しそうではないか
横になると咳や呼吸苦が強くならないか
酸素飽和度は普段と比べて低下していないか
体重が増えていないか
下腿、仙骨部、腰、背中に浮腫がないか
尿量が減っていないか
食事量や活動量が落ちていないか
血圧や脈拍に変化がないか
このなかで、ひとつだけ異常があるからといって、心不全と決まるわけではありません。
一方で、
体重増加と浮腫
呼吸数増加と食事量低下
横になると苦しがることと夜間の咳
尿量低下と浮腫の悪化
といった変化が重なると、心不全らしさは高まります。
特に、数日前から徐々に悪化しているのか、今朝から急に変化したのかという時間経過は大切です。
(5)医師には何を報告すればよいのか
看護師さんや若手医師が、心不全を確定診断する必要はありません。
必要なのは、「心不全の可能性がある」と考えて、判断材料をそろえて報告することです。
たとえば、
「昨日から呼吸数が18回から26回に増えています。酸素飽和度は96%ですが、食事中に息苦しそうです」
「3日で体重が2キログラム増え、両下腿と仙骨部の浮腫が悪化しています」
「夜間に横になると咳が出て、上半身を起こしたがります。尿量も昨日から減っています」
という報告であれば、医師は次に何を確認するかを考えやすくなります。
反対に、
「なんとなく苦しそうです」
だけでは、その場面を見ていない医師には伝わりにくいことがあります。
報告では、次の3点があると整理しやすくなります。
いつから変化したのか
何が以前と違うのか
一緒に起きている変化は何か
最後に、
「心不全の可能性もあると思います」
と付け加えて構いません。
診断名を当てることより、見逃してはいけない変化を共有することの方が大切です。
心不全は、チームで見つける疾患
心不全は、医師が聴診器を当てた瞬間に見つかる疾患とは限りません。
体重が少し増えた。
食事量が落ちた。
夜になると咳が出る。
背中が以前よりむくんでいる。
こうした小さな変化が、少しずつ重なって表れます。
患者さんのそばにいる時間が長い人ほど、その変化に気づきやすいものです。
特に寝たきり患者さんでは、足だけを見ていても浮腫を見逃すことがあります。
背中や仙骨部まで見る。
そして、普段との違いを言葉にして報告する。
心不全の早期発見は、特別な検査の前から始まっています。
こあら先生のひとりごと
自分で書いておいて言うのも変な話ですが、医師への報告のところ、「なんとなく苦しそうです」でまったく問題ないです。
苦しそうなわけですから、僕ならすぐ、見にいきますよ。
他の先生もそうでしょう。