バセドウ病の患者さんにメルカゾールを処方していると、いつか考えることがあります。

「この薬は、いつまで飲んでもらうのだろう」

甲状腺ホルモンが正常になっても、すぐには中止しません。少しずつ減量し、そのまま何年か経過している患者さんもいます。

僕の頭の中では、だいたい次のように考えていました。

メルカゾールを飲み始めて2~3年。1錠を隔日まで減量でき、その状態で6か月ほど甲状腺ホルモンが正常なら、いったん止めてみる。

もちろん患者さんごとに調べていますが、まずは自分の感覚がどのあたりにあるのか、いくつかの資料を確認してみました。

「今日の臨床サポート」を確認する

今日の臨床サポートでは、メルカゾール(2.5mg)1錠/日で、6カ月間、TSHを含めて甲状腺機能が正常の場合に休薬してみる、という流れが示されていました。

僕が普段行っている方法と、ほぼ同じです。

というより、僕が「今日の臨床サポート」を愛用しているので、同じになるのでしょう。

日本のガイドラインではどう書かれているか

『バセドウ病治療ガイドライン2019』でも、抗甲状腺薬1錠の隔日内服で、6か月以上甲状腺機能が正常な場合には、休薬を検討してよいという考え方が示されています。

なお、日本甲状腺学会は、ガイドラインにある「メルカゾール5mg隔日」を、現在は「5mg隔日または2.5mg毎日」と読み替えるよう案内しています。2.5mg錠を毎日飲む方が、飲み間違いは少なくなるでしょう。

どうやら、

「十分に少ない量まで減量する」
「その状態で6か月以上安定している」

というのが、日本で休薬を考える一つの目安のようです。

海外では少し考え方が違う

僕が2023年8月16日にインスタグラム投稿を作った時点で確認したUpToDateでは、メルカゾールに相当する抗甲状腺薬を12~18か月使用し、TSHが正常で、TSH受容体抗体が陰性なら休薬を試みる、という流れでした。

日本のように少量まで細かく減らしてから中止するというより、一定期間治療したところで病勢を評価し、休薬してみる印象です。

どちらが正しいというより、休薬までの道筋が少し違うのでしょう。

実際に休薬すると、どのくらい再発するのか

患者さんに、

「薬を止めてみますか。それとも少量を続けますか」

と尋ねるのであれば、医療者側は再発の可能性を数字で伝える必要があります。

今回、参考にしたのは、大阪大学のグループが2003年に発表した研究です。

この研究では、バセドウ病患者57人に対して抗甲状腺薬を徐々に減量し、最終的に次の条件を満たした時点で休薬しています。

・メルカゾール5mgを隔日で内服している
・その状態で6か月以上、FT4とTSHが正常である

休薬から2年後、57人のうち46人は甲状腺機能正常を維持し、11人が再発しました。

休薬後2年間の再発率は19.3%です。

再発した11人のうち9人は、休薬後8か月以内に再発していました。この研究では、最初の6か月は1~2か月ごと、その後は3~4か月ごとに血液検査を行っています。

ただし、この数字は、すべてのバセドウ病患者に当てはまるわけではありません。

少量のメルカゾールで6か月以上安定している、寛解の可能性が比較的高そうな患者さんを選んで休薬した研究です。しかも、抗甲状腺薬の治療期間は平均約71か月でした。短期間治療した患者さんを、一律に中止した研究ではありません。

患者さんには、次のように説明するのがよさそうです。

一般的には、メルカゾールを中止すると再発することがあります。ただ、少量の薬で半年以上安定してから中止した日本の研究では、2年以内に再発した人は約5人に1人でした。

「あなたの再発率は19.3%です」と断定するのではなく、似た条件の患者さんを集めた研究では、この程度だったと伝えます。

TSH受容体抗体は、どこまで参考になるのか

休薬時のTSH受容体抗体が陰性なら、再発しにくい傾向があります。ただし、陰性でも再発する患者はいます。

ガイドラインを読んでも、最後は患者さんごとに決める

ここまでは、検査値と研究の話です。

実際の外来では、休薬できる条件を満たしていても、すべての患者さんで同じように薬を止めるわけではありません。

僕は、再発する確率だけでなく、再発したときに何が起きるかを考えます。

心房細動や心不全がある患者さん

心房細動や心不全がある患者さんでは、バセドウ病が再発したときの影響が大きくなります。

甲状腺ホルモンが再び上昇すれば、心拍数が増え、心房細動や心不全が悪化する可能性があります。

低用量のメルカゾールで安定しており、これまで副作用もなければ、無理に休薬せず、そのまま継続する方向へ傾きます。

再発に自分で気づきにくい患者さん

動悸、発汗、手指の震え、体重減少。

バセドウ病が再発すると、このような変化が現れることがあります。

しかし、認知症のある患者さんでは、自分の体調変化に気づいたり、それを周囲へ伝えたりすることが難しい場合があります。

再発しても発見が遅れる可能性が高いなら、やはり低用量を続ける方が安全だと考えることがあります。

薬を止められるかではなく、止めたあとも安全に見守れるかを見るわけです。

患者さんが、どちらを負担と感じるか

もう一つは、患者さん自身の感じ方です。

「また悪くなるのが怖いので、少量なら続けたい」

という患者さんがいます。

一方で、

「毎日薬を飲むのが面倒です」
「できれば薬を減らしたい」
「副作用が心配です」

と話す方もいます。

メルカゾールには、無顆粒球症などの重大な副作用があります。重篤な無顆粒球症は投与開始後2か月以内に多いとされていますが、長く飲んでいれば何も考えなくてよい、という薬ではありません。継続する場合にも、副作用の説明と定期的な診察、検査が必要です。

患者さんには、休薬後の再発リスクと、薬を続ける負担や副作用の両方を伝えます。

そのうえで、

「約5人に1人が再発した研究があります。再発した場合には、また治療が必要になります。一方、少量の薬を続ければ再発しにくくなりますが、服薬の手間と副作用の可能性は残ります。どちらを選びたいですか」

と相談する。

検査値だけでは決められない部分です。

こあら先生のひとりごと

僕の基本的な考え方は、今もあまり変わりません。

メルカゾール5mg隔日、または2.5mg毎日まで減量する。
その状態で6か月以上、TSHとFT4が正常であることを確認する。
TSH受容体抗体も参考にする。

条件が整えば、休薬を相談します。

ただし、心房細動や心不全がある患者さん、再発に自分で気づきにくい患者さんでは、低用量継続も選択肢となります。

【参考文献】

Kashiwai T,Hidaka Y,Takano T,et al.Practical Treatment with Minimum Maintenance Dose of Anti-Thyroid Drugs for Prediction of Remission in Graves’ Disease.Endocrine Journal.2003;50:45-49.
https://doi.org/10.1507/endocrj.50.45