健診でAST・ALT高値を指摘されて受診する患者は外来で日常的に見かけます。多くは脂肪肝ですが、その中にB型・C型肝炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎といった治療可能な慢性肝疾患が紛れています。外来ではまず、肝機能障害の型を見分けながら初期評価を進めます。

健診でAST・ALT高値を指摘された症例

48歳の女性。
1ヶ月前の健診で AST 60, ALT 60, γ-GTP 90。
身長158cm、体重70kg。常用薬なし。アルコールは機会飲酒。

僕の現場感覚としては、この時点でまず脂肪肝を疑います。
ただし、ここで止めない。

見た目には脂肪肝を疑いやすい症例ですが、外来ではまず肝機能障害の全体像を把握する必要があります。

この場面では、私は一度立ち止まって考えます。
この患者は「よくある脂肪肝」なのか、それとも「拾うべき疾患が隠れている症例」なのか。

外来での初期評価

まず、その日に結果が出る検査を揃えます。

・肝機能を含む一般的な血液検査(健診値と比較)
・HBs抗原
・HCV抗体
・腹部エコー

B型・C型肝炎は現在では治療可能ですし、肝がんの見落としは致命的です。
だからこそ、この分岐は最初に必ず通過させます。

その後、私の中では選択肢が3つに絞られます。
(1)脂肪肝として生活指導中心で経過を見る
(2)慢性肝疾患として精査を進める
(3)急性肝疾患として精査を進める

そして僕は(2)か(3)を選択することが多いです。ビビりですからね。

慢性肝障害を疑うときに追加する検査

ウイルス性肝炎が否定的でも、ここで止めると見落とします。

自己免疫性肝炎(AIH)や原発性胆汁性胆管炎(PBC)が隠れていることがあるからです。

追加検査としては、

・抗核抗体(ANA)、IgG
・抗ミトコンドリア抗体(AMA)

この組み合わせで、炎症型か胆汁うっ滞型かの方向が見えてきます。

僕がもし患者さんの立場なら、「脂肪肝ですね」と言われて終わるよりも、「一通り見ておきました」と言われた方が安心します。その安心感は、医療者側の検査設計で作れるものです。

急性肝障害を疑うときに追加する検査

健診の文脈では頻度は高くありませんが、無視はできません。

自覚症状(倦怠感、黄疸、食欲不振)や急激な上昇がある場合は、急性肝炎の可能性を考えます。

検査としては、

・IgM-HBc抗体
・HCV-RNA
・IgM-HA抗体
・EBV-VCA-IgM, IgG, EBNA

A型肝炎やEBウイルス感染でも一過性の肝障害は起こります。

ただし、このパートは「全例に行う検査」ではありません。
症状と経過を見て、必要な場合にだけ追加します。

前提・分析・結論

前提
健診でAST・ALT高値を指摘されて受診する患者で多いのは脂肪肝。
しかし他の疾患が原因の可能性もある

分析
初期評価では、腹部エコー・一般的な血液検査(HBV・HCV)を行う。
その後、慢性型か急性型かを判断、必要な検査だけを追加する。
この分岐を意識すると、検査は増えずに精度が上がる。

結論
脂肪肝っぽい症例でも、一度だけきちんと振り分ける。
この一手間が、拾うべき疾患を拾う。

秘書ユナのコメント

健診後の肝機能障害は、「よくある異常」に見えて、その中に「拾うべき疾患」が混ざっています。この文章の価値は、知識の網羅ではなく、外来での分け方がそのまま置かれている点にあります。検査を増やすのではなく、分岐を意識する。そこに臨床の密度が出ます。

こあら先生のひとりごと

健診でAST・ALT高値を指摘されたとき、
脂肪肝として流すか、もう一歩踏み込むか。
僕は、踏み込んでいます。

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