76歳の男性、検診で「貧血」と言われて来院。
Hb 8.8、フェリチン 7.1。どう見ても鉄欠乏性貧血です。
出血源を探すために胃カメラをすると、所見は「慢性萎縮性胃炎のみ」。
大腸カメラでも軽い痔以外は異常なし。
便潜血も2回とも陰性。
――これは悩ましい。
出血が見つからない鉄欠乏性貧血。
こういうとき、つい「小腸も調べるか」と思いがちですが、
もうひとつ、見落とされがちな原因があります。
それが、ピロリ菌(Helicobacter pylori)感染。
慢性萎縮性胃炎の背景にピロリ菌があると、
胃酸分泌の低下や鉄吸収の障害が起こり、
鉄欠乏性貧血の原因となることがあります。
実際、ピロリ菌感染者は非感染者に比べて
鉄欠乏性貧血になるリスクが1.72倍高いという報告もあります
(Helicobacter. 2017;22(1):e12330)。
さらに、除菌によってヘモグロビン値やフェリチンが改善するケースも。
「消化管出血がない鉄欠乏性貧血」では、
ピロリ菌の除菌を検討する価値があります。
参考文献
H.pylori感染の診断と治療のガイドライン(2016改訂版) 25ページ
https://www.jshr.jp/medical/journal/file/guideline2016.pdf?utm_source=chatgpt.com
鉄代謝と鉄欠乏性貧血ー最近の知見ー 〔日内会誌 104:1383~1388,2015〕
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/7/104_1383/_pdf
Hudak L ら(2017)『Helicobacter pylori感染と鉄欠乏性貧血の関連についての最新メタ解析』Helicobacter 22(1): e12330.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27411077
前提・分析・結論
前提
鉄欠乏性貧血の原因精査では、消化管出血が最も多い。
しかし、明らかな出血源が見つからないこともある。
分析
ピロリ菌感染は鉄吸収障害や微小出血の原因となり、
除菌によって改善が見られる報告がある。
一方で、すべての患者が改善するわけではない。
結論
出血源が見つからない鉄欠乏性貧血では、
ピロリ菌検査と除菌治療の検討を加えることで、
診断と治療の幅が広がる。