高齢患者さんが入院中にせん妄を起こすことは、日常臨床でよく経験する場面です。原因は肺炎や低ナトリウム血症、低血糖、低酸素血症、発熱、ベンゾジアゼピン、環境の変化など多岐にわたります。
しかし、見逃されがちな原因があります。それが「尿閉」です。
尿閉が見逃されやすい理由
便秘は排便回数が確認されやすく、看護師も意識してチェックします。一方で尿は「少し出ている」ことで安心してしまいがちです。しかし、実際には膀胱がパンパンに膨らんでいるのに、少量ずつ漏れている ― いわゆる溢流性尿失禁のケースが存在します。
この場合、排尿回数や尿量のチェックだけでは見抜けません。下腹部の膨隆も分かりにくく、日常観察の中で発見するのは難しいのです。
実践すべきアプローチ
そこで重要になるのが ブラダースキャン です。
リスペリドンなどの抗精神病薬を使う前に、まずは尿閉を除外する。これが臨床的に大切な視点だと思います。
「導尿したら、せん妄が改善した」というケースは、実際に少なくありません。精神科薬の投与よりも、尿閉の解除が第一選択となることがあるのです。
臨床現場での示唆
せん妄を見たら薬を出す前に、患者のお腹を軽く触診し、必要ならブラダースキャンで確認してみる。こうした一手間が、患者さんの安全と回復を大きく左右します。
尿閉は「隠れた原因」として、もっと意識されるべきだと考えます。
前提・分析・結論
(1)前提
高齢患者のせん妄の原因は多様であり、肺炎・電解質異常・低酸素血症などが典型的だが、便秘や尿閉といった身体要因も関与する。
(2)分析
尿閉は排尿回数や尿量の記録だけでは見抜けず、溢流性尿失禁として隠れていることがある。便秘に比べ観察文化が弱く、発見が遅れやすい。
(3)結論
せん妄に直面したら、抗精神病薬よりもまず尿閉を疑い、ブラダースキャンによる確認と導尿を検討すべきである。