こあら病院は、ダビンチを買うべきか

手術支援ロボットと聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは「ダビンチ」だと思います。

ちなみに、日本でロボット手術が最初に保険適用となったのは、前立腺がん手術でした。

前立腺がんは、いまでも少し特別な位置にあります。
現時点の基本点数で見ると、K843-2「腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術」は77430点、K843-4「腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術(内視鏡手術用支援機器を用いるもの)」は95280点です。つまり、前立腺ではロボット支援そのものが個別に評価されている。ここは、ロボットだから高く評価される代表例と言ってよいと思います。

いっぽうで、消化器外科は話が少し違います。
直腸がんのロボット手術は2018年度、結腸がんのロボット手術は2022年度に保険適用となりました。ただし、結腸がんでよく話題になる K719-3「腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術」は59510点で、術式コード自体にはロボット専用の上乗せがありません。つまり、少なくとも基本点数だけを見れば、腹腔鏡で行っても、ロボットで行っても同じです。ここが前立腺との大きな違いです。

では、病院が新たに結腸のロボット手術を始めるとき、何が要るのか。
単に機械を買えばよいわけではありません。施設基準では、外科または消化器外科、消化器内科、放射線科、麻酔科を標榜している病院であり、医療安全対策加算1の届出があり、この術式を術者として10例以上経験した常勤医師がいて、結腸悪性腫瘍に係る手術を年間30例以上行っていることが求められます。さらに、外科系常勤医2名以上、緊急手術体制、常勤の臨床工学技士、機器の適切な保守管理も必要です。

ここから先は、制度の話というより経営の話になります。
文献では、da Vinci Xi クラスの導入費用は1台2億円程度、年間維持費も数千万円規模とされています。単科で低稼働のまま導入すれば、腹腔鏡の単純な置き換えでは固定費すら吸収しにくい。消耗品コストが十分に設定されていない場合、手術するほど赤字になる恐れもある。つまり、こあら病院が大学病院の外科チームを招聘することができたとしても、赤字が予想されます。逆に、泌尿器科、外科、婦人科、呼吸器外科などで共用し、高難度症例の流出を防ぎ、紹介を呼び込める病院なら話は変わってきます。

そして、その条件を満たす病院は、すでにダビンチを導入している。
大学病院クラスの病院です。

2026年度改定で「年間200例以上」に15000点加算が付いたのは、制度の側も、高額機器は高稼働で回す病院をより強く評価し始めた、ということでしょう。
逆に、年間200例未満の病院は退場勧告を受けたのかも知れません。

こあら病院は年間200例は無理だと判断して、ダビンチは導入しないという判断です。
導入コストが低い国産機であっても、同様の判断です。
固定費が多少下がっても、稼働率が損益分岐点を超えない。

問題は、年間200例に届かないが、すでにロボットを導入している病院です。
ロボットを導入している病院の半分以上が、200例には届いていないでしょう。

若手外科医の採用・育成、病院のブランディングといった、付加価値を信じて続けるのか。
それとも金銭的な傷が大きくなる前に撤退するのか。

会計の問題ではない。経営判断の領域に入っています。

秘書ユナのコメント

この記事は、制度・点数・施設基準・コスト・症例数という「動かしにくい条件」から結論を導いており、判断として非常に筋が通っています。とくに「年間200例」を基準にした線引きは、現実的な意思決定として納得感があります。

そのうえで、読み手がもう一段深く理解するための視点を少しだけ補います。

まず、ダビンチ(da Vinci Surgical System)は設備ではなく、病院の立ち位置を決める投資です。
高度急性期として難度の高い症例を集めに行くのか、それとも地域で完結する医療に軸足を置くのか。この選択と切り離して導入可否を考えることはできません。

次に、機会費用の視点です。
2億円という資金をロボット手術に投じるのか、それとも人材・救急・地域連携に振り向けるのか。導入しないという判断は、「やらない」のではなく「別の機能に集中する」という選択でもあります。

最後に、すでに導入しているが高稼働に至っていない病院の問題。
これは収支の問題というより、撤退や再配置を含めた経営判断の問題です。埋没費用をどう扱うかは、今後の地域医療の再編とも静かに接続していきます。

前提・分析・結論

前提
ロボット手術(da Vinci Surgical System)は高額な設備投資であり、診療報酬は術式ごとに差がある。損益は症例数に強く依存し、制度上も高稼働が前提になりつつある。

分析
単科での導入では固定費を吸収しにくく、複数診療科での高稼働が成立しない限り収益化は難しい。さらに、この投資は単なる機器導入ではなく、病院の戦略(高度急性期志向か地域完結型か)を規定する性質を持つ。また、2億円規模の資金を他の機能に振り向ける選択肢との比較、すなわち機会費用も無視できない。

結論
年間200例規模の高稼働が見込めない病院にとって、ダビンチ導入は合理性に乏しい。導入しないという判断は回避ではなく、戦略的に資源配分を最適化する意思決定である。

こあら先生のひとりごと

2億円あれば、ダビンチを買うよりも、まず救急外来の天井と壁と床を直して、机と椅子を新しくします。僕の現場感覚としては、そのほうが、こあら病院の医療は静かに良くなると思っています。