胸部大動脈瘤を診たときに、まず頭に浮かぶのは「何mmなら手術なのか?」という疑問です。
教科書的には、55mm以上あるいは半年で5mm以上の拡大が手術適応とされています。

ただし、これはあくまで目安であって、「55mmを超えたら即手術」というわけではありません。実際の臨床現場では、もっと複雑な要素が判断に絡んできます。

臨床で考慮される要因

実際には以下のような要素が手術適応を左右します。

  • 年齢:60歳と90歳ではリスク許容度がまったく違う。
  • 併存疾患:腎機能障害や呼吸器疾患の有無で手術リスクが変わる。
  • 術者の腕前:ゴッドハンドなら45mmでも「やってみよう」と判断されるかもしれない。
  • 患者さんの価値観:破裂リスクを取ってでも手術は避けたいのか、それとも積極的に受けたいのか。
  • 国や制度の違い:手術費用が高額な国では「やらない」選択肢も現実的になる。

つまり「55mm」「5mm/半年」といった基準はスタートラインに過ぎず、その上で「人」を見て最終判断する必要があります。

臨床教育の観点から

後輩や研修医に説明するときには、まず教科書的基準を提示したうえで、
「ただし実際には年齢・合併症・価値観などで変わるんだよ」と補足するのが良いでしょう。

これは「正解がない領域だからこそ、基準を知って悩める」ことが大切だからです。

前提・分析・結論

(1)前提
胸部大動脈瘤の手術適応は「55mm以上」「半年で5mm拡大」と示されるが、臨床現場では必ずしも単純に当てはまらない。

(2)分析
判断には年齢、合併症、術者の技量、患者の価値観、さらには国の制度まで多様な因子が影響する。教科書的基準は一つの目安に過ぎない。

(3)結論
大動脈瘤の手術適応は「数値だけで決まらない」。基準を知ったうえで、多角的に考え、患者ごとに最適解を模索する姿勢が重要である。