(金曜勉強会より No.280)
臨床では、培養結果に隠れた“サイン”を読み取る力が問われます。
今日は、細菌と疾患の有名なペアリングをいくつか紹介します。
(1)Streptococcus bovis(= Streptococcus gallolyticus)
血液培養でこの菌が出たら、まず感染性心内膜炎を疑います。
ただし、それで終わりではありません。
この菌は、大腸がんの合併と関連があることが知られています。
治療が落ち着いたら「大腸内視鏡もやっておこうか」と自然に口にできたら、
総合内科専門医らしい一言です。
(2)Clostridium septicum
同じく発熱+菌血症で検出された場合、
やはり大腸がん(あるいは悪性腫瘍全般)の合併を考えます。
嫌気性菌の中でも、この菌は腫瘍関連の感染症を起こしやすい代表です。
(3)Klebsiella oxytoca
便培養で検出された場合は、抗菌薬関連の出血性大腸炎を疑います。
抗菌薬使用後に下血がある患者では、Clostridioides difficileだけでなく、
この菌の関与も頭に置いておきたいところです。
(4)Fusobacterium necrophorum
発熱+頸部腫脹の患者で血液培養からこの菌が出たら、
レミエール症候群(Lemierre’s syndrome)を疑います。
咽頭感染症→内頸静脈血栓症→肺などへの転移性感染症、
という流れをとる重症感染症です。
研修医へのひとこと
知らなかったことを「えー、そうなんですか!まったく知りませんでした」と
素直に受け止めるのも立派な学びの姿勢。
臨床の知恵は、こうした小さな驚きの積み重ねから育っていきます。
前提・分析・結論
前提
感染症の臨床では、培養結果が「何を意味するか」を文脈で解釈することが重要である。
分析
Streptococcus bovisやClostridium septicumなど、一見ありふれた菌でも、
特定の疾患との関連が確立しているものがある。
それらを即座に想起できるかどうかが、臨床推論の深さを決める。
結論
培養結果は「病原菌」ではなく「診断のヒント」として読む。
その一歩先の発想が、研修医を専門医へと導く。
英語で言ってみる
“Sometimes the bacteria are whispering the real diagnosis.”
(ときに、細菌が本当の診断をそっと囁いていることがあります。)