内視鏡医が本当に果たすべき役割とは何か
大腸内視鏡検査は、
何度も気軽に繰り返せる検査ではありません。
前処置の負担があり、
検査そのものも、患者にとっては決して楽なものではない。
だからこそ私は、
大腸内視鏡は「一回勝負の検査」だと考えています。
とくに、
・炎症性腸疾患の疑い
・慢性の下痢精査
・持続する血便
こうしたオーダーで行われる大腸内視鏡は、
その一回が、今後数年の診断と治療を左右します。
内視鏡医の仕事は「診断をつけること」ではない
キャリアの浅い内視鏡医ほど、
その場で何らかの診断名を付けたくなるものです。
クローン病っぽい
腸結核かもしれない
ベーチェットも否定できない
そう考えること自体は、もちろん大切です。
ただ、内視鏡医の最も重要な役割は、
その場で正解を当てることではありません。
後から診断できる材料を、
どれだけ最大化できたか。
私は、そこに内視鏡医の本質があると思っています。
写真は、未来の診断のための一次データ
内視鏡画像は、
その場限りの記録ではありません。
あとから、
より経験のある医師が見直すかもしれない。
専門施設に紹介した際に、再評価されるかもしれない。
だから、
・遠景と近接
・解剖学的な位置が分かる構図
・洗浄前と洗浄後
・出血して分からなくなる前の状態
こうした情報は、
「撮れるだけ撮る」が基本です。
デジタルデータです。
100枚撮っても、誰も困りません。
逆に言えば、
写真が少ない、分かりにくい、ピントが甘い。
それだけで、
後から診断できる可能性は大きく削られてしまいます。
生検は、病理だけで終わらせない
炎症性腸疾患を疑ったとき、
生検は必須です。
ただし、
潰瘍の底から取っても、
壊死組織しか出てこないことは珍しくありません。
活動性炎症がありそうな周囲から、
複数か所取る。
これは基本です。
そして、
腸結核を少しでも疑う状況であれば、
・チール・ニールセン染色
・結核菌培養
・結核菌PCR
・一般細菌培養
ここまで出しておく。
便培養の陽性率が低いからこそ、
内視鏡医の責任は重い。
私はそう考えています。
「誰がやるべき検査なのか」という視点
ここからが、
私が一番言いたいことです。
炎症性腸疾患の疑いがある大腸内視鏡は、
その日の内視鏡医の中で、
最も能力の高い人間が担当するべき検査だと思います。
これは、
若手を否定する話ではありません。
むしろ逆です。
一回で、
観察も
写真も
生検も
培養も
すべてを網羅する必要がある検査だからこそ、
・経験
・判断力
・引き出しの多さ
これらが、そのまま患者利益に直結します。
空いている人がやる検査ではない。
当番だから回す検査でもない。
そういう検査が、
大腸内視鏡には、確実に存在します。
キャリアの浅い内視鏡医へ
もしあなたが、
炎症性腸疾患を強く疑う症例を前にして、
「自分でやるべきか、上の先生にお願いするべきか」
迷ったなら。
私は、
その迷い自体が、すでに正しいと思います。
内視鏡医の仕事は、
自分の手技を披露することではありません。
未来の診断に耐えうる材料を、
一回の検査で残し切ること。
それができるかどうか。
それだけです。
前提・分析・結論
【前提】
大腸内視鏡検査は一回性の高い検査であり、初回情報が将来を規定する。
【分析】
内視鏡医の本質的役割は、その場の診断ではなく、後から診断可能な一次データを最大化することにある。
【結論】
炎症性腸疾患を疑う大腸内視鏡は、最も能力の高い内視鏡医が担当するのが、患者にとって最も合理的である。
秘書ユナのコメント
この記事は、
内視鏡の技術論ではなく、
内視鏡医の責任範囲を言語化した内容だと感じました。
キャリアが浅い時期ほど、
「自分でやるべきか」「上の先生に任せるべきか」
その判断に迷う場面が増えます。
この記事が提示しているのは、
上手いか下手か、
若手かベテランか、
そういった二元論ではありません。
その検査が、
患者にとって何度も繰り返せない検査なのかどうか。
将来の診断を左右する検査なのかどうか。
その問いを立てられるかどうか。
それ自体が、すでに内視鏡医としての成熟だと思います。
こあら先生のひとりごと
初回検査で、びしっと、お願いしますよ。