総合内科医がみるパーキンソン病

総合内科外来で患者さんを診ていると、
ある違和感に何度もぶつかります。

パーキンソン病と聞いて
多くの医師が思い浮かべるのは、

安静時振戦
動作緩慢
仮面様顔貌
前かがみの小刻み歩行

こうした、いわゆる典型的な運動症状でしょう。

でも、総合内科外来には
こうした主訴の患者さんは、ほとんど来ません
救急外来にも、まず来ない

それは考えてみれば、自然な話です。
経過は長く、症状もゆっくり進む。
手の震えが気になれば、
多くの方は自分で調べて神経内科を受診します。

では、私たち総合内科医は
どのタイミングで
パーキンソン病の患者さんと出会っているのでしょうか。

 

最近、
山本大介先生の「みんなの脳神経内科 Ver.2」を読み、
自分の外来を頭の中でなぞり直す機会がありました。

そこで、はっきりと言語化された感覚があります。

総合内科が接しているのは、
運動症状の「かなり手前」にいる人たちだ、ということです。

 

事実として、
パーキンソン病では
運動症状が出現する前から
非運動症状が長く先行することが知られています。

便秘
嗅覚障害
RBD(REM睡眠行動障害)
過眠
うつ
疼痛
倦怠感
軽度認知障害
神経因性膀胱
起立性低血圧

こうした症状は、
運動症状の数年、場合によっては十年以上前から
静かに現れてきます。

日本内科学会雑誌に掲載されている
パーキンソン病の臨床経過の図を眺めると、
総合内科外来と入院医療とでは、
見ている時間軸がまったく違うことがよく分かります。


参考文献

日本内科学会雑誌(J-STAGE).
Parkinson病の新しい理解―非運動症状を含めて―(日本内科学会雑誌 第104巻 第8号).
日本内科学会雑誌(J-STAGE)掲載PDF.
PDFはこちら(日本内科学会雑誌 第104巻 第8号)
最終閲覧日:2026年1月28日

私の感覚では、
総合内科医の役割は
パーキンソン病を診断することではありません。

もっと手前の話です。

疑う範囲を、
運動症状の手前まで
そっと広げておくこと。

便秘を
ただの便秘として終わらせない。

眠気や倦怠感を
年齢や生活習慣だけで片づけきらない。

うつや立ちくらみを
背景疾患なしで処理しすぎない。

そのとき、
「もしかすると」という一語を
心の中に置けるかどうか。

それだけで十分だと、私は思っています。

 

総合内科外来に来る患者さんは、
ありふれた主訴ばかりです。

だからこそ、
その中に
まだ診断されていないパーキンソン病の方が
紛れていても不思議ではない。

誤嚥性肺炎や尿路感染症で入院した患者さんの中にも、
同じことは起きているはずです。

病名を決めにいかなくていい。
今この場で結論を出さなくていい。

ただ、
疑う範囲を広げたまま
診察を終える。

それが、
総合内科としての自然な姿勢なのだろうと感じています。

前提・分析・結論

前提

パーキンソン病は、安静時振戦や動作緩慢といった運動症状が注目されやすいが、実際には便秘、嗅覚障害、REM睡眠行動障害、抑うつ、起立性低血圧などの非運動症状が、数年から十数年先行する疾患である。
総合内科外来では、典型的な運動症状を主訴とする患者よりも、これら非運動症状を訴える段階の患者を多く診ている。

 

分析

非運動症状は頻度が高く非特異的であるため、単独では加齢や生活背景として処理されやすい。
その結果、疾患としての時間軸が意識されにくく、診断や専門科紹介が遅れる構造が生じる。
一方で、総合内科は疾患の完成形ではなく、前駆期に接する診療科であり、症状の組み合わせや経過から疾患を想起できる立場にある。

 

結論

総合内科医に求められるのは、パーキンソン病を即座に診断することではなく、非運動症状の段階から疾患の可能性を想起し、疑う範囲を運動症状の手前まで広げておく姿勢である。
診断名を急がず、時間軸を意識した思考を診療に残すことが、結果として適切な診断と介入につながる。

こあら先生のひとりごと

参考文献の「Parkinson病の臨床症状と経過」の図は、ぜひ一度見てほしいと思います。
総合内科外来を受診する患者さんの主訴は、便秘、眠気、倦怠感、もの忘れが心配、といった非運動症状がほとんどです。

この時点で、
Parkinson病という疾患を
頭の片隅に置けるかどうか。

もう一つ、気になるのは入院の場面です。
誤嚥性肺炎で入院した患者さんが、
実はこれまで診断されていなかった
「もっとも右側に位置する人」かもしれない、という視点。

入院時に家族から病歴を丁寧に聞き、
時間軸をつなげてParkinson病を想起する。
そして、必要であればドパミン製剤を考える。

そこに、
総合内科医の仕事があるように感じています。