ある日、イーライリリーのMRさんが外来に来た。
この会社で三十一年、糖尿病薬に関わってきた方だ。
少し間を置いて、こう言った。
私はイーライリリーで三十一年やっていますけど、
こんなに手応えがある薬は初めてです。
売れている、という意味ではない。
効いている、という一言でも足りない。
薬の効果を示すデータが、これまでにないほど良い。
他剤との差がはっきりしていて、医師に説明しやすい。
何なら、医師の方がすでに興味を持ってくれている。
そういう意味での手応えなのだろうと思った。
実際、その場で私は、いろいろ質問した。
効果の差はどこから来るのか。
どの患者層で一番効いているのか。
使い分けをどう考えているのか。
あの言葉は、
単なる営業トークではなかったのだと思う。
まず、私が日常診療で実際に使っている薬から整理しておく。
トラゼンタは、血糖を穏やかに下げる。
低血糖の心配は少なく、使いやすい。
ただ、体重はほとんど動かない。
トルリシティになると、
体重が少し落ち、血糖も下がる。
そして、リベルサスでは、
体重減少はトルリシティよりも、はっきりする。
これは、データの話というより、
私自身の診療の中で感じている違いだ。
いずれも良い薬だが、
体重という一点に限れば、
同じGLP-1でも差がある。
ここまでは、
あくまで私が実際に使っている薬の話である。
マンジャロについて、
私はまだ処方経験がない。
ただし、
説明し、検討の俎上に載せたことはある。
肥満のある若年者で、
糖尿病のコントロールが不良な患者さんに、
マンジャロの話をした。
効果のことも、
位置づけのことも話した。
ただ、反応は前のめりではなかった。
少し、迷っている様子だった。
そのとき、
私はその場で結論を出さなかった。
パンフレットを渡して、
また考えてみて下さいね、
そう伝えた。
以前の私なら、
迷った時点で、
では今回は見送りましょう、
と話を畳んでいたと思う。
でも今回は、終わらせなかった。
マンジャロという選択肢が、
私自身の行動を、
少し変えた瞬間だった。
若年で肥満があり、
糖尿病のコントロールが悪い人に対して、
基本的な考えは今も変わらない。
まずは生活を変えてほしい。
正直に言えば、
ダイエットを頑張ってほしいと思っている。
ただ、
行動変容を促すためには、
変化を実感できることが必要だ。
トラゼンタでは、体重は減らない。
血糖が下がっても、
身体の感覚はあまり変わらない。
リベルサスでは、
体重が落ちるという実感が出てくる。
マンジャロは、
体重も血糖も、
より大きく動く可能性がある薬だ。
だからこそ、
選択肢として無視できなくなってきている。
そういえば、
自分自身にも、似た経験があった。
インプラント手術を受けたとき、
感染が怖くて、
一週間ほど、意識的に食事量を減らした。
その短期間で、体重は落ちた。
そして、その後も、
食べすぎない生活が続いている。
一生続けようと思っていたわけではない。
一週間だけの制限だった。
でも、
身体が一度軽くなると、
元に戻る理由がなくなった。
行動が変わるきっかけは、
長い努力ではない。
短くても、
インプラント感染が怖いなどの強い理由と、
分かりやすい結果があればいい。
マンジャロを、
一生使い続ける薬だとは、私は考えていない。
ダイエットのきっかけとして、
行動が回り始めるための助走として、
一時的に使う。
その可能性について、
私は今、考え始めている段階だ。
まだ自分の実感はない。
ただ、説明し、
選択肢として差し出した。
それ自体が、
これまでとは違う行動だった。
マンジャロは、
効き目の強さ以上に、
「処方しない理由をどう説明するか」
という問いを、
診察室に持ち込んできた薬なのだと思う。
前提・分析・結論
前提
・若年で肥満を伴う2型糖尿病では、生活習慣が病態の中心にある
・行動変容は、正しさだけでは起きず、変化を実感できることが必要
・GLP-1受容体作動薬の中でも、体重への影響には薬剤間で差がある
・マンジャロ(GIP/GLP-1受容体作動薬)は、体重と血糖を大きく動かし得る薬として登場した
分析
・トラゼンタでは体重はほとんど変わらない
・トルリシティよりも、リベルサスの方が体重減少を実感しやすい
・筆者自身はマンジャロ未使用だが、説明し、検討の時間を置いた
・その行動は、これまでの診療態度とは異なっていた
結論
マンジャロ(GIP/GLP-1受容体作動薬)は、
処方しない理由を説明する薬になるだろう。
こあら先生のひとりごと
添付文書の「4.効能又は効果」は、2型糖尿病だけですよ。