マクロアミラーゼ血症という言葉を、これまで意識したことがない研修医の方は多いと思います。私自身、最初は「急性膵炎じゃないのに、なんでアミラーゼだけこんなに高いんだろう」と首をかしげた記憶があります。
ある32歳の男性、心窩部痛で来院し、血清アミラーゼは1500。誰が見ても急性膵炎を考えたくなる数字でした。ところが、造影CTは正常。腹部所見も軽く、よく話を聞いてみると本人も奥さんも下痢がひどい。腸炎と言われれば腸炎に見えるし、膵炎と言われれば膵炎に見えるような、あいまいな場面です。
このケースのポイントは、症状と検査値が一致しない違和感でした。アミラーゼだけが大きく上昇しているのに、膵炎らしい状況ではない。こんなときに思い出したいのが、マクロアミラーゼ血症という存在です。
血清アミラーゼが免疫グロブリンと結合し、大きな分子(マクロアミラーゼ)を形成すると、腎臓からの排泄がうまくいかず、血中にアミラーゼがたまってしまいます。膵臓が悪いわけではなく、酵素が「大きすぎて流れにくい」だけ。患者さんの体の中では、静かにそうした現象が起きていることがあります。
アミラーゼアイソザイムのパターンを見ると、通常はS1やS2の山がはっきり分かれていますが、マクロアミラーゼ血症では全体的にブロードに広がる形になります。




マクロアミラーゼ血症は、病的意義を持ちません。治療は不要で、むしろ「膵炎と誤診されて不必要な入院や治療が行われないようにする」ことのほうが大切です。今回の患者さんは急性腸炎が主因で、その方がたまたまマクロアミラーゼ血症を持っていただけの話でした。
振り返ると、こうした「知っているだけで一発診断できる疾患」は意外と多いものです。一過性全健忘や成人パルボウイルスB19感染症、ヒスタミン中毒、偽性血小板減少症、体質性黄疸、タゾピペによる低K血症……。知っていると世界が一段階クリアになったような感覚があります。
今日の学びは、症状と検査値がそぐわないときに、一度立ち止まる余裕でした。アミラーゼ高値=膵炎ではない。大事なのは、目の前の患者さんの姿です。
前提・分析・結論
(前提)
アミラーゼ高値で来院する患者は多いが、膵炎として扱われてしまうケースも少なくない。症状・画像・検査の不一致が起こる背景には、マクロアミラーゼ血症という良性の状態が存在する。
(分析)
アミラーゼ値の上昇を見た瞬間に膵炎を疑うのは自然だが、膵炎らしい症状が乏しい場合には、代替診断を考える必要がある。マクロアミラーゼ血症は、免疫グロブリンとの複合体形成でアミラーゼが大きくなり、腎排泄が障害されるために生じる。アイソザイムのブロード化は典型的な所見で、臨床像と組み合わせると確信が持てる。
(結論)
アミラーゼ単独の上昇に振り回されず、症状と経過で丁寧に判断すること。マクロアミラーゼ血症という背景知識を持つことで、不必要な膵炎診断や加療を避けられる。臨床の迷いを減らすためにも、研修医の段階で押さえておきたい項目である。
秘書ユナのコメント
アミラーゼ高値の患者さんは外来でもよく遭遇しますが、症状の軽さと数値の高さが一致しないときに、落ち着いて背景を考えられるかどうかが臨床力の差になります。
マクロアミラーゼ血症は、知っていれば「迷わない」疾患です。膵炎の誤診による不必要な入院や治療を避ける上でも、ぜひ頭の片隅に置いてみて下さい。
画像付きのアイソザイム比較は、研修医の学習用としても役立つ内容です。
Macroamylasemia often mimics pancreatitis, but the clinical picture tells the truth.
(マクロアミラーゼ血症は膵炎のように見えますが、真実を語るのは臨床像です)
こあら先生のひとりごと
マクロアミラーゼ血症の頻度については古い文献が中心ですが、ある商業誌のレビューでは
「マクロアミラーゼ血症は全人口の 0.23%,高 AMY 血症の 0.6〜1.6%,原因不明の慢性高 AMY 血症の 28%に認められる」
とまとめられていました。
(出典:medicina Vol.62 No.5 特集 スクリーニング血液検査の素朴な”?”から始める”深み”のある日常診療 2025年4月発行 『無症候性高 AMY 血症をみたらどうしたらいい?』田村弘樹 先生)