イントロダクション
臨床現場で「下痢と肝機能障害」を同時に呈する患者さんに出会うと、まずは消化器内科的な疾患を思い浮かべることが多いと思います。潰瘍性大腸炎や薬剤性肝障害、ウイルス性肝炎など、確かに消化器領域で扱う疾患は多岐にわたります。特に開業医からの紹介を受ける総合病院では、まれな疾患の可能性も含めて幅広い鑑別を検討するのが自然です。
専門医が考える鑑別の幅
実際に紹介を受けた場面では、次のような病態が候補に挙がるでしょう。
- 潰瘍性大腸炎(高齢者でも否定はできない)
- A型やE型肝炎、パラチフスといった感染症
- 薬剤性:メトホルミン、PPI など
- アルコール性肝障害に伴う下痢
- 内分泌疾患:甲状腺機能亢進症など
検査を重ねると、確かに可能性はいくらでも広がっていきます。
そこで「心不全」という発想
今回の投稿で私が強調したいのは、心不全も鑑別に加えるべきという点です。
下痢と肝機能障害が心不全の典型的な症状ではないのは事実です。しかし、心不全患者は非常に多く、その中には「下痢+肝機能障害」という形で発症するケースも一定数存在します。
特に高齢者の症例では、消化器症状に目を奪われがちですが、「胸の症状」にも注意を払うことが重要です。お腹の症状に引き込まれてしまい、心不全を見落とす危険があるからです。
実践への示唆
若手医師へのメッセージ
下痢と肝機能障害を見たとき、「まず消化器系」という反応は自然ですが、そこに「心不全もあり得る」という視点を加えるだけで診断の幅は大きく広がります。
チーム医療での注意点
消化器内科や内科に紹介される症例でも、循環器的な評価を意識的に取り入れることが重要です。
まとめ
「下痢+肝機能障害」という症状の組み合わせは、消化器疾患を想起させやすいものです。しかし、臨床の現場では心不全のようなコモンな疾患も隠れている可能性を忘れてはなりません。胸に意識を向けることで、不必要な検査を避け、早期に適切な治療につなげられることがあります。
前提・分析・結論
前提:下痢と肝機能障害を主訴に紹介される患者は多い。
分析:消化器疾患の鑑別は広いが、心不全による症状も一定数存在する。
結論:臨床では「消化器疾患+心不全」を同時に考える姿勢が重要。