導入

低カリウム血症の原因としてまず思い浮かぶのは、利尿薬や芍薬甘草湯かもしれません。
日常診療でも、この2つは非常によく見かけます。

しかし、もう一つ覚えておいた方がよい薬があります。
それが タゾバクタム/ピペラシリン(ゾシン・タゾピペ) です。

肺炎治療中に原因がはっきりしない低カリウム血症が出てきた場合、私はまずこの薬剤の影響を疑うようにしています。

FACT

タゾバクタム/ピペラシリン(ゾシン・タゾピペ)は低カリウム血症を起こすことがあります。
添付文書には、「低カリウム血症(4.0%)」と書いてあります。

しかし実臨床では、それより高い頻度で起きている可能性があります。

ある研究では、タゾバクタム/ピペラシリン投与患者420例を対象に低カリウム血症の発生頻度が調べられています。
この研究では低カリウム血症を 血清K値3.6 mEq/L未満 と定義しています。

その結果、低カリウム血症の発生率は 24.8% でした。
ただし、その多くは軽症であり、重症低カリウム血症(K<3.0)は6.4% と報告されています。

つまり、タゾバクタム/ピペラシリンによる低カリウム血症は、決して珍しい副作用ではありません。


参考文献
Kuramoto H, Masago S, Kashiwagi Y, Maeda M. Incidence and Risk Factors of Hypokalemia in Tazobactam/Piperacillin-administered Patients. Yakugaku Zasshi. 2019;139(12):1591-1600. Available at: https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/139/12/139_19-00143/_article/-char/ja/ (最終閲覧日:2026年3月4日)

僕の現場感覚としては

肺炎治療中の患者さんで、利尿薬も使っておらず、下痢もないのにカリウムが下がってくることがあります。
そのような場面を振り返ると、多くの場合タゾバクタム/ピペラシリンが投与されています。

私の感覚では、タゾバクタム/ピペラシリンによる低カリウム血症は投与開始から 7日目前後 に出てくることが多い印象があります。
もちろん厳密なデータではありませんが、何度か同じ経過を経験すると自然と頭に残るパターンです。

以前の私の対応

肺炎でタゾバクタム/ピペラシリンを使用する場合、多くは緑膿菌感染を想定しています。
そして、緑膿菌肺炎では抗菌薬治療期間として 14日間 が推奨されていた時代が長く続いていました。

私は以前から、タゾバクタム/ピペラシリンで低カリウム血症が起きること自体は知っていました。
そのため、この薬剤投与中に低カリウム血症が出現した場合には、タゾバクタム/ピペラシリンをメロペネムへ変更することが多かったのです。

低カリウム血症が7日目に出たとしても、当時の感覚ではまだ治療の半分です。
あと7日間は抗菌薬治療が必要と考えていたため、原因薬剤を変更して治療を続けるという判断になっていました。

最近の私の対応

しかし最近、考え方が少し変わりました。

感染症治療の分野では、抗菌薬治療期間は必ずしも長くなくてよいという流れがはっきりしてきています。
多くの感染症で治療期間は以前より短縮されています。

そのため現在は、タゾバクタム/ピペラシリン投与中に低カリウム血症が出たとき、私はまず次のことを考えます。

この抗菌薬、もう終了できないだろうか。

以前のようにすぐメロペネムへ変更するのではなく、そもそも抗菌薬を継続する必要があるのかを先に検討するようになりました。

また、低カリウム血症を見たときに単にカリウムを補充するという対応は私は行いません。
原因がタゾバクタム/ピペラシリンである可能性があるなら、まず考えるべきはカリウム補充ではなく薬剤そのものの見直しだと思うからです。

参考文献
日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. 日本呼吸器学会. Available at: https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20240319125656.html (最終閲覧日:2026年3月4日)

僕がもし患者さんの立場なら

薬を追加するよりも、不要な薬を減らしてほしい。
おそらく私自身が患者だったとしても、そう考えると思います。

そのため、低カリウム血症を見たとき、私はまず抗菌薬を減らせないかを考えます。
そして可能であれば、タゾバクタム/ピペラシリンを終了するという判断を選ぶようになりました。

前提・分析・結論

前提
タゾバクタム/ピペラシリン(ゾシン・タゾピペ)は低カリウム血症を起こすことがある。

分析
タゾバクタム/ピペラシリンによる低カリウム血症は投与7日目前後に出現することが多い印象がある。一方、近年は抗菌薬治療期間が短縮されている。

結論
低カリウム血症を見たときは、抗菌薬変更やカリウム補充の前にタゾバクタム/ピペラシリン終了を検討する。

秘書ユナのコメント

低カリウム血症の原因として、利尿薬や消化管からのカリウム喪失はよく知られています。
しかし抗菌薬も原因となることがあります。

特にタゾバクタム/ピペラシリンは、比較的頻度の高い副作用として低カリウム血症が報告されています。
原因がはっきりしない低カリウム血症を見たときには、この薬剤が処方されていないかを一度確認してみるとよいかもしれません。

こあら先生のひとりごと

低カリウム血症を見たら、処方を減らせないかどうかを、まず考えています。