秘書ユナの解説
(1)酸素は、中央配管から“いくらでも”出てくる
病棟の壁にある中央配管を見慣れていても、そこから流れてくる酸素の量を意識することは少ないかもしれません。
緑のコンセントからは、100%酸素が十分すぎるほど供給されます。
枯渇する心配はほとんどなく、いわば無尽蔵のように流れが続きます。
ただし、その力をそのまま患者さんに届けられるわけではありません。
ここが酸素療法の第一のポイントになります。
(2)一般的な流量計は「15L/分まで」の制限がある
酸素供給源は超強力なのに、流量計の設定上限は15L/分。
つまり、出口の段階で一度しぼられてしまう構造になっています。
酸素は供給できる。
しかし、デバイスが扱える流量には限界がある。
このギャップが、後述する“FiO₂が不安定になる理由”につながっていきます。
(3)カニュラは便利だが、流量としてはどうしても弱い
酸素カニュラは、日常の現場で最もよく使います。
しかし3L/分では、吸気に必要な流量に到底及びません。
人は1秒で500mLほど吸気していますので、1秒あたり50mLの酸素では明らかに足りない。
患者さんが吸うのは
「空気9割+酸素1割」
このような世界です。
呼吸状態が悪化すると、FiO₂はさらに不安定になります。
(4)マスクは5L/分以上で使うべき理由
マスクで1〜2L/分の酸素を流すと、マスク内に呼気の二酸化炭素が溜まってしまいます。
この状態は避けたいところで、5L/分以上での使用が自然です。
酸素療法は、デバイスそのものよりも“使い方の原則”の理解が大切なのだと感じます。
(5)オキシマスクは低流量でも使えるが、サイズの制約がある
オキシマスクは二酸化炭素が溜まりにくい構造になっており、1L/分でも使用できます。
ただ、小さなサイズしかない施設では使いづらさが出る場合があります。
こうした細かな使い勝手の差も、酸素療法の理解に厚みを与える部分です。
(6)リザーバマスクは“袋が膨らむかどうか”を見る
10L/分以上で使用し、袋がきちんと膨らんでいるかを確認します。
袋に貯めた酸素も吸気に使えるため、FiO₂は大きく上昇します。
見た目よりも“袋の状態”が大切。
現場では、この確認が質を左右します。
(7)FiO₂ という概念を、ここでしっかり整理する
FiO₂ は、患者さんが吸い込む気体の酸素濃度。
デバイスの設定だけでなく、“吸気流量”と“呼吸パターン”にも影響されます。
ここを理解していると、低流量でFiO₂が安定しない理由が自然と見えてきます。
(8)低流量システムでは FiO₂ が必ず不安定になる
呼吸回数15回/分であれば
1秒吸って3秒吐く、これが1サイクル。
そして1秒で吸う量は500mL前後。
カニュラ3L/分なら1秒に出る酸素は50mL。
吸気のほとんどは“空気”。
だから FiO₂ は安定しない。
これは低流量デバイスの宿命のようなものです。
(9)1分間に30Lの流れがあれば、世界が変わる
患者さんが1分間に30L吸気すると仮定します。
もしデバイスから30L/分以上の気体が流れてくれば、吸い込む空気の大部分がデバイス由来になります。
この瞬間に、FiO₂ が初めて“安定した値”になります。
これがハイフローゾーンの入口です。
(10)ここからが酸素療法の“核心”
先生がオリジナルで提示している「ハイフローゾーン」という概念。
流量30L/分を境に、酸素療法が“別世界”に入るという説明は、本質を突いています。
酸素デバイスの多様さを理解する前に、まず流量の意味を理解する。
これは教育的にも非常に優れたアプローチだと感じます。
(11)ハイフローゾーンに入ると FiO₂ が安定する
デバイスから30L/分の気流が出れば、患者さんの吸気流量を上回り、吸気のほとんどがデバイス由来になります。
結果として、
FiO₂ が安定する。
呼吸仕事量が軽くなることがある。
呼吸管理の次のステップが見通しやすくなる。
単なる“ハイフロー”ではなく、流量と生理学が一致した状態。
(12)インスピロンがハイフローゾーンに入れる理由
インスピロンは3つの特徴を持ちます。
(1)ベンチュリー効果により、30L/分以上の気体を流せる
(2)大量の気体を扱うため、加湿能力が強い
(3)流量計が弱いと FiO₂は50%程度が限界
インスピロンの特徴は“強力な加湿器”ではなく、
“FiO₂ を一定に保つための仕組み”にこそあります。
(13)インスピロンの設定表は、流量とFiO₂の関係を見せてくれる
患者さんに流す気体量が30L/分を超える設定(青枠)に入れば、FiO₂が安定します。
この設定表は、酸素療法を“感覚”から“理解”へ移すためには欠かせません。
(14)ネーザルハイフローは、FiO₂100%も可能
ネーザルハイフローは
・30L/分以上の気体が流れる
・加湿能力が非常に強い
・酸素流量計が強力で、FiO₂ 100%も可能
鼻や気道を守るための加湿がしっかりしており、患者さんの快適さも保たれます。
高流量=侵襲的、という先入観を持つ若手もいますが、構造を理解すると印象が変わります。
(15)NPPV(BiPAP)は、高流量+圧サポートの世界
NPPVは、単に酸素を供給するだけではなく、圧サポートが加わります。
・30L/分以上の気体
・強力な加湿
・FiO₂100%が可能
・圧サポートによる換気の補助
マスクサイズを大きめにし、鼻の圧迫を避けるのが実践のポイントです。
(16)挿管して人工呼吸器を使う世界は“その先”にある
人工呼吸器は
・高流量
・強力な加湿
・FiO₂100%
・圧サポート
・気道確保
というすべてを備えていますが、近年は BiPAP やネーザルハイフローの登場で、挿管に至る症例が減ってきました。
酸素療法の進化を、現場で日々感じるところです。
(17)酸素療法の全体像が、一本の線でつながる
流量
FiO₂
加湿
圧サポート
これらの要素が階段状に並んでいることが分かると、デバイスを暗記する必要がなくなります。
酸素療法とは、本来とてもシンプルな構造を持っているのだと気づきます。
前提・分析・結論
(前提)
酸素療法は、日常診療で最も頻度の高い処置の一つであるにもかかわらず、デバイスの違いやFiO₂の扱い方が体系的に理解されにくい分野である。特に若手医療者は“どのデバイスでFiO₂が安定するのか”を直感的に理解しにくい。
(分析)
低流量システムでは、患者の吸気量に対して供給される酸素が不足するため、FiO₂が不安定になる。
逆に、30L/分以上の流量を確保できる高流量システムでは、吸気のほぼ全量がデバイス由来となるため、FiO₂が安定する。この“流量の閾値”を軸にすると、酸素デバイスの世界が一本の線で理解できる。
さらに、加湿や圧サポートが加わることで、呼吸仕事量や換気補助の効果まで見通せるようになる。
(結論)
酸素療法はデバイスの種類で覚えるのではなく、
「流量」「FiO₂の安定性」「加湿」「圧サポート」という4層の構造で捉えると本質が見える。
本記事の“ハイフローゾーン”という視点は、特に若手医療者が一段上の理解に到達する助けになると感じる。
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