病院で働いていると、「これは本当に必要な仕事なのだろうか」と感じる瞬間があります。もちろん多くの仕事は必要だから存在しています。しかしその中には、目的がよく分からないまま続いている仕事も、時々混ざっているように思います。

例えば、議題のない大量の定例会議。委員会。紙で配った資料の内容を、なぜかホワイトボードにも書く仕事。昨日のコロナ陽性件数の読み上げ。

さらに思い出すと、全国セミナーの内容をそのまま伝える院内報告会。紹介元への「本日受診しました。内容は後日医師から報告します」という返書。AIによる詳細すぎて誰も読まない入院サマリー。そして会議が終わった後に始まる、本当の会議。

もっと言えば、忘年会の出席者名簿をエクセルで作る仕事。感染症講習会の参加者名簿の作成。結果が公表されないアンケート。幹部が結果を見ないアンケート。ワードで大量の文字をコピペして作られる業務マニュアル。ベテランも参加する初心者向け研修会。

図書室に眠る、何十年も前の本に、整理番号のラベルを作って貼る仕事。

こうして並べてみると、少し不思議に感じるかもしれません。しかし現場で働いていると、こうした仕事はそれほど珍しいものではありません。

ただし、このような仕事がすべて無意味だと言いたいわけではありません。制度対応として必要なものもあります。安心のために残されているものもあります。過去のトラブルの経験から続いているものもあるでしょう。だから全部をやめればよいという話ではありません。

それでも私は時々、こう考えることがあります。

組織には、少しずつノイズが増えていくのではないか。

ノイズとは、必ずしも無意味なものではありません。しかし本当に重要な情報や、本当に重要な仕事の周囲に積み重なり、それらを見えにくくしてしまう存在です。

例えば電子カルテでも、似たような現象が起こります。大量のコピペで作られた記録は、一見すると情報が豊富に見えます。しかし実際には、重要な情報を見つけることが難しくなります。

例えば

黒色便あり

という一行。この一行が、長いコピペの中に紛れて書かれていることがあります。その一行を見つけるために、医師は長い文章を読み続けることになります。情報が増えるほど理解が深まるとは限りません。むしろ重要な情報の周囲に大量のノイズが積み重なっていく構造になることがあります。

組織の仕事も、どこか似た構造を持っているように思います。

仕事は、新しく生まれることは多いのですが、消えることはあまりありません。制度が変われば新しい報告が増えます。トラブルが起きれば新しい手順が増えます。何かを改善しようとすると、新しい会議が増えます。

こうして仕事は少しずつ増えていきます。

しかし一方で、古い仕事をやめるという判断は、あまり行われません。結果として、組織の中には少しずつノイズが積み重なっていきます。

問題は、仕事が増えることそのものではありません。問題は、本当に重要な仕事がノイズの中に埋もれてしまうことです。

忙しい組織ほど、本当に重要なことを考える時間が減っていきます。会議は増えるのに、意思決定は遅くなる。書類は増えるのに、情報は整理されない。

そういう場面を、私は何度か見てきました。

だから最近は、新しい仕事が生まれたとき、もう一つの問いを置くようにしています。

この仕事は本当に必要だろうか。

もし必要だとして、その代わりにやめる仕事は何だろうか。

組織の仕事は、増えること自体が問題なのではありません。本当に重要な仕事が、組織のノイズの中に埋もれてしまうこと。それが一番の問題なのだと思っています。

前提・分析・結論

前提
組織では制度対応や改善活動によって新しい仕事が増えていくことが多い。一方で、既存の仕事が廃止されることは少ない。

分析
仕事は追加されやすく、廃止されにくいため、組織の中には少しずつ業務のノイズが積み重なっていく。このノイズは重要な情報や重要な仕事を見えにくくする。

結論
組織の問題は仕事の量ではなく、ノイズの存在である。本当に重要な仕事を守るためには、新しい仕事を増やすだけでなく、やめる仕事を意識する必要がある。

こあら先生のひとりごと

あなたにその仕事を依頼した人はもう、そのことは忘れていますよ。