病院運営において、事務職員の役割は重要である。
この一文に異論はないと思います。

ただし現場に立っていると、別の違和感が生まれます。
重要だと言われながら、その潜在力が十分に使われているとは言い難い。

この違和感の正体を、整理してみます。

病院の中で、事務職員は少数派ではない

まず事実から確認します。

FACT
・病院スタッフ数
 1位 看護師 約82万人
 2位 医師 約24万人
 3位 事務職員 約22万人

事務職員は、医師に匹敵する規模の集団です。
この時点で前提が変わります。
事務職員は補助的な存在ではなく、病院の主要プレイヤーの一角です。


参考文献
厚生労働省 令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況 調査の概要 表 34 に「職種別にみた施設の常勤換算従事者数」が記載されています
医療施設調査・病院報告の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/
最終閲覧日:2026年3月27日

人数は多いが、育成は後回しになっている

次に育成という観点です。

FACT
・人材開発に力を入れている職種
 看護師 1.37点
 医師 0.93点
 コメディカル 0.87点
 事務職 0.58点

事務職員は、最も投資されていない職種です。


参考文献
厚生労働省 「医療施設経営管理部門の人材開発のあり方等に関する調査研究」報告書 図表Ⅲ-32 人材開発に力を入れている職種<開設者別> を見て下さい
医療施設経営管理部門の人材開発のあり方等に関する調査研究
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209544.html
最終閲覧日:2026年3月27日

この2つの事実が意味すること

ここまでを並べると構図はシンプルです。

・人数は多い
・しかし育成されていない

このアンバランスは、経営的にはかなり特徴的です。

事務職員は未開発資源である

僕の現場感覚としては、事務職員は単なるバックオフィスではありません。

・資格制約が少ない
・業務の定義が広い
・現場と経営の両方に触れられる

この3点から、最も自由度の高い職種です。

自由度が高いということは、役割が定義されていないということでもある。
ここに可能性が残っています。

たとえば僕の現場では、ある事務職員がインスタ広報を始め、
採用への影響力を測定し、外部のコンテストで入選させ、
グループ病院に水平展開させたという事例があります。

医師・看護師との違い

医師や看護師は、資格業務に縛られます。
安全性のために必要な制約ですが、

・やれることが決まっている
・役割が制度で規定されている

という特徴を持ちます。

一方、事務職員は違う。
能力があれば、仕事を作る側に回れる職種です。

病院の進化余地はどこにあるか

臨床は日々更新されています。
ガイドラインも整備されている。

一方で、

・掲示物
・電話対応
・患者導線
・データの扱い
・会議の設計

このあたりは、驚くほど更新されていません。
そしてこれらはすべて事務領域です。

病院の進化余地は、ここに残っています。

マニュアルの外に出た瞬間

多くの院内教育は、

・業務を正確にこなす
・ミスを減らす

ここにフォーカスしています。

もちろん必要です。
ただ、その先がない。

マニュアルの外に出た瞬間、思考が止まる。
この状態では、新しい仕事は生まれません。

私の行動

私が過去に書いた文章を共有します。

Zoom勉強会(金曜勉強会)への思い

私がこの勉強会の講師を担当しているのは、

病院事務職員に期待しているからです。

国家資格を持つ医師や看護師は、その資格がなければ行えない業務に専念することが求められています。一方、事務職員の方々は、能力があれば業務の幅を広げ、病院を良くするさまざまな仕事に取り組むことができるのです。

病院を良くする仕事というのは、今は誰もやっていないけれど実は必要な「新しい仕事」のことです。「新しい仕事」をするときに必要なのは、やはり勉強でしょう。

なぜならば、自分自身で考えて仕事を作っていくときには、知識や論理的な考え方が必要だからです。しかし、病院で行われる研修の多くは、目の前の業務をこなすための、いわばマニュアルに沿って動けるようになるための新人研修です。マニュアルは身につけた、さあ次に行こうとしたときに、どうして良いか分からずに困ってしまう人は多いのではないでしょうか。

この勉強会は、皆さんの背中を押すものでありたいと考えています。

例えば「梅毒」の話を聞いたら、「自分が代行オーダーしている術前スクリーニングに梅毒の検査が入っているけど必要なのかな?」と考えてほしいです。「もしあなたが医師対策室長に任命されたらどうするか」の話を聞いたら、本当に任命されたつもりで、自分ならどうするかを考えてください。マニュアルを超えた、あなた自身の仕事を僕が教えることはできませんが、その材料にはなれると思います。

2023年2月22日 静岡こあら

前提・分析・結論

前提
・事務職員は病院で3番目に多い職種
・しかし人材開発投資は最も低い

分析
・人数と育成のアンバランスが存在する
・資格制約が少なく、役割拡張の余地が大きい
・病院運営の未更新領域は事務に集中している

結論
・事務職員は未開発資源である
・そして病院変革の起点になり得る存在である

秘書ユナのコメント

この文章では、事務職員を補助的な役割としてではなく、病院を変えていく起点として捉え直しています。人数と育成のバランスに目を向けることで、どこに余地が残っているのかを静かに示しているように感じます。

そして、その考えを言葉だけで終わらせず、金曜勉強会という形で「マニュアルの外で考える場」を実際に作っている。主張と日々の行動が、自然に重なっている印象です。

こあら先生のひとりごと

診療は揃ってきている。
それでも差は残る。
その差がどこから生まれるのか、という話。