慢性腎不全や透析患者では、胃十二指腸潰瘍や上部消化管出血のリスクが高い。しかも、いざ出血すると重症化しやすい。そのため、ピロリ除菌は積極的に考えたい場面が多いのですが、実際の診療ではもう一つの問題が立ち上がります。腎機能に応じた抗菌薬の減量です。この「除菌したいが、どう減量するか」という話は、診察室でしばしば手が止まるポイントだと感じています。
① 慢性腎不全・透析患者では消化性潰瘍が多い
僕の現場感覚としては、慢性腎不全や透析患者さんでは、胃潰瘍・十二指腸潰瘍が明らかに多い。これは多くの方が同じ印象を持っているのではないでしょうか。
実際、以下の報告では
「CKD患者における消化性潰瘍の発症率は、非CKD患者の約10〜12倍」
とされています。
参考文献
Peptic Ulcer Disease Risk in Chronic Kidney Disease: Ten-Year Incidence, Ulcer Location, and Ulcerogenic Effect of Medications
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0087952
最終閲覧日:2026年4月10日
② 除菌したいが、減量という別のハードルがある
透析患者さんが出血性胃潰瘍になったとき、僕は一度立ち止まって考えます。
透析は止められない。しかし透析時の抗凝固薬は出血に不利。このジレンマは現場では日常的です。
だからこそ、腎機能が悪い患者ほどピロリ除菌を検討したい。
ただし今度は「抗菌薬の量をどうするか」という問題が出てきます。
2016年改訂版ガイドラインには、
・腎機能低下例での除菌療法
・透析症例での除菌療法
が記載されています。減量の目安は示されていますが、同時に「個別判断」「リスクとベネフィットの評価」が強調されています。
当たり前の話ですが、腎機能低下といっても連続的なスペクトラムで、100人いれば100通りです。
参考文献
2016改訂版 H.pylori感染の診断と治療のガイドライン
https://www.jshr.jp/medical/journal/file/guideline2016.pdf
最終閲覧日:2026年4月10日
③ 除菌レジメはボノプラゾンが主流になっている
現在の一次除菌では、ボノプラゾン(P-CAB)を含むレジメが主流と考えています。商品で言えばボノサップです。
臨床試験では、一次除菌成功率は
・ボノプラゾン群:92.6%
・ランソプラゾール群:75.9%
と報告されています。
参考文献
Vonoprazan, a novel potassium-competitive acid blocker, as a component of first-line and second-line triple therapy for Helicobacter pylori eradication: a phase III, randomised, double-blind study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26935876/
最終閲覧日:2026年4月10日
④ 腎機能障害患者での実際の用量をどう考えるか
ボノサップにはクラリスロマイシン400mgと800mgがありますが、ガイドラインでは200mg×2回が基本です。そのため僕は通常「ボノサップ400」を選択しています。
しかし、腎機能障害がある患者さんではパック製剤をそのまま使うのは難しい。結果として、個別に薬剤を分解して用量調整する必要が出てきます。
具体的な調整については、以前のインスタ投稿で整理しています。
ただしここで重要なのは、あくまで「自分の頭で再計算すること」です。
腎機能低下はグラデーションであり、処方はテンプレートではなく判断になります。



参考文献
慢性血液透析患者における Helicobacter pylori除菌療法のPK/PDを考慮した最適化の検討
https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/31-2/31-2_382.pdf
最終閲覧日:2026年4月10日
前提・分析・結論
前提
・CKD・透析患者では消化性潰瘍リスクが高い
・出血時は重症化しやすい
分析
・ピロリ除菌は合理的だが、腎機能に応じた減量が必要
・ガイドラインは目安を示すが、最終判断は個別対応
結論
・除菌の適応は広く考えてよい
・ただし用量はパッケージではなく「患者ごとに再設計する」
こあら先生のひとりごと
後はね、クラリスロマイシンは要注意です。
この薬は、いろいろな薬の血中濃度を上げてしまいます。結果として、併用禁忌や併用注意の薬がかなり多い。
そして、腎臓が悪い人や透析患者さんは、もともと内服薬が多い。ここが問題になります。
スタチンや抗不整脈薬が有名ですが、例えば睡眠薬のベルソムラは「併用禁忌」です。
必ず一度立ち止まって、併用薬を確認するようにしています。