研修医が書くレポートについて考えてみました。レポートを書く目的は自分が経験した症例をまとめて身につけるためですが、そのレポートは指導医に評価されるという一面も持っています。今回は、もし自分(指導医)がレポートを書くなら何を書くかを、お伝えしてみたいと思います。指導医が何を期待しているのかを探ってみてください。
1.ショック
消化管出血によるショック、蜂に刺されてのアナフィラキシーショックなどが書きやすいと思います。症例提示に加えて、ショックの分類を挙げて、「消化管出血によるショックなので、細胞外液を急速輸液した」などとまとめれば良いと思います。
2.体重減少・るい痩
臨床的に頻度が高いのは高齢者医療ですが、レポートとしてはバセドウ病や、るい痩で発見された糖尿病などが書きやすいと思います。
3.発疹
経験できれば、麻疹・風疹・水痘などや、EBウイルスによる伝染性単核球症などでしょうが、経験できなければ、蕁麻疹をしっかりと考察すれば良いと思います。DPP-4阻害薬による類天疱瘡など経験できれば、内科学会地方会で発表しましょう。
4.黄疸
総胆管結石による閉塞性黄疸が経験しやすいのではないでしょうか。もしくは、急性肝炎による黄疸。経験できなければ、新生児の生理的黄疸という手もあります。
5.発熱
肺炎とか尿路感染症ではなく、何かこう、経験値が上がったような経験を書くと良いと思います。例えば、不明熱で精査したら薬剤熱だったとか、不明熱で紹介されたけど普通に肺炎だったとか。王道は、感染性心内膜炎でしょうか。
6.もの忘れ
要求されているのは、認知症診療の経験だと思います。なので、認知症の診断とか、分類とか、存在する薬とかを書くのでしょう。少しひねって、一過性全健忘はどうでしょうか。なかなか経験しないと思いますが。後は、認知症かと思ったら、慢性硬膜下血腫だったとか、甲状腺機能低下症だったとか、低ナトリウム血症だったとかのケースも良いと思います。
7.頭痛
自分なら、くも膜下出血一択です。見逃したときのインパクトが大きすぎるので、厳重に勉強してもらいたい疾患です。片頭痛や緊張性頭痛もありますが、書きにくいでしょう。
8.めまい
良性頭位めまい症をエプリー法で治した一例を書いてくれている研修医は、頼もしいなと感じます。小脳梗塞とか、貧血とかでも書けますよ。
9.意識障害・失神
意識障害なら糖尿病性ケトアシドーシス。経験できれば髄膜炎。後は、高度房室ブロックとか、高カルシウム血症とか、SU剤で低血糖とか、敗血症とか、敗血症で低血糖とか、いろいろあります。
10.けいれん発作
てんかん発作で救急搬送された一例とか、低血糖によるけいれんとかでしょう。
11.視力障害
これは難しいですね。眼科ローテーションすれば別ですが、普通は難しい。救急外来で緑内障発作が経験できれば良いですが、最近は緑内障発作の患者さん、見なくなったような気がします。話が飛びますが、最近は気管支喘息発作の患者さんも見なくなりました。僕が研修医のころは、救急外来と言えば気管支喘息発作という感じもあったのですが、吸入ステロイドの普及によるものでしょうか。何にせよ、視力低下を主訴に救急外来を受診して、眼科の先生に診てもらった症例となるでしょうから、網膜動脈閉塞・網膜剥離・緑内障発作などになり、頻度的に経験できないかも知れませんね。患者さんが視力障害を訴えて、それを自分が受けて眼科コンサルト⇨白内障・ドライアイなどで書くしかないように思います。
12.胸痛
急性心筋梗塞です。他には、気胸・肺塞栓・大動脈解離で書いて欲しいです。王道以外では「右側胸部痛を訴えて来院。初診時には胸部CTを含むすべての検査で異常なし。後から発熱・胸水が出現しての胸膜炎」などは、教育的なレポートだと思います。後は、後からブツブツが出た帯状疱疹。
13.心停止
亡くなった方はすべて心停止ですが、入院中の方がその基礎疾患で亡くなったというケースではなく、心停止で救急搬送されたケースを経験したのかが問われていると思います。なので、一般的な心肺蘇生術について書くのでしょう。できれば、その心停止の原因が分かったり、想像できたりするケースが望ましいと思います。と言いましたが、何でしょう・・Chat GPTに聞いてみたところ、胸痛を訴えた後に心停止したので心筋梗塞が疑わしいとか、前駆症状無くなら致死性不整脈、呼吸苦が先行すれば肺塞栓、大量下血なら循環血液量減少、という具合に、そこに至るストーリーを書くといいんじゃないかと言っていました。そう思います。
14.呼吸困難
肺炎・気管支喘息発作・心不全・肺塞栓・気胸などいろいろ書けます。
15.吐血・喀血
胃潰瘍で吐血、食道静脈瘤破裂で吐血、ひどい逆流性食道炎でも吐血です
16.下血・血便
経験するであろう疾患としては、大腸憩室出血、虚血性腸炎でしょう。後は直腸潰瘍とか。もし経験できれば、潰瘍性大腸炎なども良いでしょう。クローン病は有名ですが、潰瘍性大腸炎と比べて圧倒的に少ないと思います。
17.嘔気・嘔吐
消化器疾患でない方が、読んでいて印象に残ります。小脳梗塞やくも膜下出血はどうでしょうか。後は、急性腎盂腎炎も嘔気が全面に出ることがあります。
18.腹痛
急性虫垂炎、胆石発作など、いろいろあります。ここでも、急性心筋梗塞による心窩部痛などで書けば、指導医に「ふむ、しっかり経験が積めているな」と感じさせることができると思います。
19.便通異常(下痢・便秘)
胃腸炎のみならず、過敏性腸症候群、クローン病などいろいろあります。ただの便秘であっても、そのメカニズムを詳細に記述していたりすると一目置いてしまいます。ところで、胃腸炎で書く場合ですが、胃腸炎診断のポイントは除外診断であるという点なので、他疾患をしっかり除外している様子を書いて下さいね。尿路感染症も同じく除外診断なので、発熱で尿路感染症など書く場合は、しっかりと他疾患を除外してください。
20.熱傷・外傷
多いのは大腿骨頸部骨折です。捻挫でも良いと思います。小さな外傷であれば、自分が縫合した経験など書ければ良いと思います。
21.腰・背部痛
多いのは脊椎圧迫骨折です。整形外科領域以外では、尿管結石。
22.関節痛
経験しやすいのは偽痛風。痛風発作でもいいと思います。逆に、有名ですが関節リウマチなんかは、経験する機会が無いのではと思います。
23.運動麻痺・筋力低下
ギランバレー症候群とか、筋萎縮性側索硬化症とか、筋ジストロフィーとかが想定されているのでしょうが、なかなか経験しないと思うので、脳卒中でどうでしょうか。後は、低カリウム血症とか。バセドウ病の方の低カリウム性周期性四肢麻痺など経験できれば、書きましょう。後は、下垂手で来院、橈骨神経麻痺と診断。入院中に発生した腓骨神経麻痺などの、圧迫性神経障害という手もあります。
24.排尿障害(尿失禁・排尿困難)
前立腺肥大による尿閉で、救急外来を受診というケースが経験しやすいでしょう。個人的に僕が書いてほしいと思っているのは、抗コリン薬による尿閉です。
25.興奮・せん妄
アルコール離脱症候群が思い浮かびましたが、高齢の方が入院すると、多かれ少なかれせん妄になることは多いと思います。なので、一般的なせん妄をしっかりと勉強して記述してもらいたいです。
26.抑うつ
精神科ローテーションで、うつ病など経験するのでしょう。その機会がなければ、、、更年期障害で書いてみる、、難しそうですが。
27.成長・発達の障害
小児科ローテーションで低身長など経験できれば書くと良いと思います。もしくは、いわゆる発達障害。家庭環境からの栄養障害。
28.妊娠・出産
正常妊娠・正常出産をきちんと記述すれば100点です。産婦人科以外に進んだ場合、もう医師として経験することはないですから。
29.終末期の症候
医学的な面、社会的な面、個人として学んだこと、いろいろ書けます。
こあら先生のひとりごと
いろいろ書きましたが、どのようなレポートが高く評価されるのかは、そのレポートを実際に採点する人が一番良く知っています。誰よりも早く書いて、40%書けたらその人に見せて、指導を受けるのがコツだと思います。
秘書ユナのコメント
初期研修医がレポートを書くときに迷いやすいポイントは、「症候の整理」ではなく、「どこまで自分の考えを書けばいいのか」という部分です。
今回の29項目は、単に症例を並べたものではなく、指導医が実際に研修医へ伝えたい“観察の視点”がそのまま残っています。
とくに、
・ストーリーとして理解する
・症候の裏側にある“判断の軸”を書く
・自分の経験値の幅を示す
という3点は、どの科に進んでも役に立つ基礎体力になります。
研修医の方がこれを読めば、レポート作成の負担が軽くなるだけでなく、日々の診療の“目の使い方”も確実に変わるはずです。
読み終えたあと、自分が経験した患者さんを思い浮かべながら振り返ると、さらに学びが深まります。
前提・分析・結論
【前提】
初期研修医には、救急外来・病棟業務・外来診療など、さまざまな場面で多彩な症候に出会う機会があります。
しかし、経験したことを文章にまとめようとすると、
「どれを書けばいいのか」
「どのくらい深く書くべきなのか」
「指導医はどこを読んでいるのか」
このあたりで迷いやすくなります。
29項目は、厚労省の研修制度や各研修病院の指導要領の流れを汲んだ“症候の核”として存在しているため、研修医の学びの軸になります。
―――――――――――――――――――――――
【分析】
今回の記事では、29の症候それぞれに対して、以下の要素が明確に扱われています。
(1)研修医が“実際に経験しやすい”疾患
過剰に難解なケースではなく、日常診療の延長で出会える症例が中心になっています。
これにより、研修医が記事を読んだ後にすぐ「このまま書いてみよう」と動きやすくなります。
(2)指導医がレポートで見たい“思考の手順”
診断の道筋、鑑別方法、治療選択の理由など、
“プロセスの見える化”
に焦点が置かれています。
これは、研修医の臨床推論(clinical reasoning)の成長を最もよく反映する部分であり、レポートで最も評価されるポイントでもあります。
(3)症候ごとに「書きやすさ」「学びやすさ」が異なる
発熱・腹痛のように書きやすいものもあれば、視力障害のように経験しづらいものもあります。
記事では、両方に対して“落としどころ”が提示されているため、読者のストレスが少なくなっています。
(4)症例の“ストーリー化”に重点が置かれている
心停止の項などが典型ですが、
「症状が起きるまでの経過をどう読み取るか」
という視点があることで、ただの症例報告ではなく“診断の物語”になります。
診療の現場で起きていることを、研修医が自力で整理していく道筋が、この記事全体に通っています。
―――――――――――――――――――――――
【結論】
この記事は、初期研修医がレポートを書くときの“指針”として非常に実践的です。
単なる症例リストではなく、
・どこを観察するか
・どう整理するか
・どう振り返るか
という、診療の基本動作が自然に身につく構造になっています。
また、29項目を一つの記事に収めることで、
“研修医の臨床経験を俯瞰する地図”
としても機能しています。
研修医が読むだけでなく、指導医や医学生にとっても、臨床の基本を思い出す良い機会になる内容です。
これから症例を積み重ねる人にとって、日々の診療を整理する“軸”として長く読まれる記事になると思います。