新人のひらめきと、先輩の洞察

ケース① 78歳・男性 健診でHb18.3

① 研修医
多血症?

② 先輩
肺気腫? 慢性低酸素?

③ 秘書ユナの解説
Hb高値を見たら、まず現象に分けます。
赤血球量が増えているのか。血液が濃縮しているだけか。

真の多血であれば、原発性か二次性かを考えます。
喫煙歴、SpO₂、呼吸音。慢性低酸素は日常診療で珍しくありません。

事前確率を意識することで、鑑別の順序が変わります。

④ こあら先生のひとこと
「肺気腫の患者さんはたくさんいますからね」

ケース② 32歳・女性 発熱+白血球35000

① 研修医
重症感染症?

② 先輩
急性白血病も否定できない。

③ 秘書ユナの解説
感染症では反応性白血球増多が起こります。
しかし急性白血病では造血の破綻が起こります。

分画、Hb、血小板。
白血球だけではなく、血液全体のバランスを見ることが重要です。

見逃しコストの高い疾患を一瞬置く習慣が重要です。

④ こあら先生のひとこと
「白血球異常高値といえば偽膜性腸炎も有名です。僕は、この知識のおかげで、下痢が全面に出ない偽膜性腸炎を診断できた経験が何度かあります。」

ケース③ 82歳・女性 心不全入院時にALT450

① 研修医
急性肝炎?

② 先輩
うっ血肝、虚血性肝障害。

③ 秘書ユナの解説
心不全では肝うっ血や低灌流・虚血性肝障害によりALTは上昇します。
既存の病態で説明できるかをまず考える姿勢は、診断をむやみに増やさないための基本です。

不要に診断を増やさないという臨床の作法が働いています。

④ こあら先生のひとこと
「心不全と急性肝炎を同時に起こすほど運の悪い人は少ないはずです」

ケース④ 52歳・男性 倦怠感+BUN38

① 研修医
脱水?

② 先輩
消化管出血では?

③ 秘書ユナの解説
脱水は頻度が高く、補液で自然に補正されることが多い状態です。
一方、上部消化管出血では蛋白吸収増加によりBUNが上昇します。

BUN/Cr比やHb低下を確認することで、次の一手が変わります。
その診断は、行動を変えるか。

④ こあら先生のひとこと
「僕はBUN上昇=消化管出血から考えます」

ケース⑤ 52歳・女性 浮腫+ALB2.3

① 研修医
低栄養?

② 先輩
ネフローゼ症候群?

③ 秘書ユナの解説
アルブミン低下は栄養だけでなく、腎からの喪失、肝での合成低下、炎症など多因子で起こります。
ネフローゼを想起しなければ尿検査は行われず、診断に届きません。

尿を見なければ、永遠に診断できない。

④ こあら先生のひとこと
「最初は、できるだけ広く網を張る」

ケース⑥ 80歳・男性 意識障害+血糖53

① 研修医
糖尿病薬の効きすぎ?

② 先輩
敗血症による低血糖?

③ 秘書ユナの解説
低血糖は原因ではなく結果のことがあります。
薬剤性、敗血症、肝不全など鑑別は多様です。

しかし治療は即時。診断より先に処置が優先されます。
何にせよ、まずブドウ糖。

④ こあら先生のひとこと
「僕は血液検査をオーダーする時は100%、血糖値も測定しています」

ケース⑦ 48歳・男性 失神+BNP640

① 研修医
心不全?

② 先輩
急性心筋梗塞→徐脈?

③ 秘書ユナの解説
BNPは心負荷の指標です。
失神は一過性脳低灌流によるイベントです。

急性虚血や不整脈の可能性を優先して評価する必要があります。
検査値は背景であり、イベントの説明ではありません。

④ こあら先生のひとこと
「失神した原因をひとつずつ潰していくんです」

ケース⑧ 28歳・男性 健診でK6.2

① 研修医
腎不全?

② 先輩
まず溶血。

③ 秘書ユナの解説
採血時の溶血により偽性高カリウム血症は起こります。
無症状で腎機能が正常なら、まず再検します。

検体エラーを除外するのは臨床の基本作法です。

④ こあら先生のひとこと
「EDTAによる偽性血小板減少症も有名です」

ケース⑨ 68歳・男性 不明熱+ALP1250

① 研修医
胆管炎?

② 先輩
胆道系じゃなければ、リウマチ性多発筋痛症?

③ 秘書ユナの解説
PMRでもALPが上昇することがあります。
この知識がなければ仮説は保持できません。

思考だけでなく、仮説を支える知識の蓄積が必要です。


参考文献

Yamashita R, Izumi Y, Hiramoto J, et al. Alkaline phosphatase is useful for predicting giant cell arteritis complications in patients with polymyalgia rheumatica. Modern Rheumatology. 2025;35(3):529–534. doi:10.1093/mr/roae101. PMID:39539233. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39539233/ (最終閲覧日:2026年2月28日)

④ こあら先生のひとこと
「僕もこの知識がなく、診断が遅れた経験があります。腹部エコーを何度もやりました。」

前提・分析・結論

【前提】
血液検査の異常値は、現象である。診断ではない。

【分析】
評価の順序は固定する。
① 真の異常か、検体・濃縮による見かけか。
② 頻度が高いものか、見逃しコストが高いものか。
③ 既存病態で説明可能か。

【結論】
検査値は、診断を当てる道具ではない。
思考の順序を整える入力情報である。