慢性の咳を主訴に外来を受診する患者さんは、実はそれほど多くありません。 少なくとも私が勤務する病院では、「8週間以上続く咳」を我慢し続けた末に来院される人は稀です。

現実の外来に来るのは、 「風邪が長引いている気がする」 「痰が絡む咳がなかなか止まらない」 そんな、まだ急性と慢性の境界にいる人たちです。

だからこそ私は、慢性咳嗽の鑑別を語る前に、まず急性咳嗽を丁寧に片づけるようにしています。

急性咳嗽をどう外すか

発熱の有無を確認し、 呼吸音を聴診し、 必要であれば胸部CTを撮る。 血液検査も行う。

この時点で肺炎や明らかな器質的疾患が否定できれば、次の段階に進みます。

慢性咳嗽の三本柱

急性の咳を除外したあと、私の頭に浮かぶ慢性咳嗽は3つです。

咳喘息アトピー咳嗽副鼻腔気管支症候群

いわゆる教科書的な並びですが、現場ではこれで十分に機能します。

副鼻腔気管支症候群という診断

痰が多く、 胸部CTでそれらしい陰影があり、 背景に慢性副鼻腔炎を疑う情報があれば、 私はまず副鼻腔気管支症候群を考えます。

副鼻腔炎と慢性気管支炎のセットです。 治療はエリスロマイシン。 数週間から数か月という時間軸で、じわじわ効いてきます。

咳喘息とは何か

咳喘息は、気管支喘息の前段階です。

病歴は喘息っぽい。 しかし強制呼気でもwheezeが聞こえない。 気道狭窄は、まだ起きていない。

この段階を私は咳喘息と考えています。

ここで重要なのは、 「まだ軽いから大丈夫」ではなく、 「ここで止めるかどうか」がその後を分ける、という点です。

アトピー咳嗽という少し厄介な存在

咳喘息と並んで、診断に迷うのがアトピー咳嗽です。

両者は、CTも聴診も正常。 見た目では区別できません。

違いは、炎症の場所です。

咳喘息や気管支喘息は、末梢気道の好酸球性炎症。 一方、アトピー咳嗽は中枢気道の好酸球性炎症です。

私はこの疾患を、少し極端ですがこう理解しています。

アトピー咳嗽は、エヘン虫です。

どうやって鑑別するのか

結論から言えば、治療反応で判断します。

まずは吸入ステロイドと長時間作用型β刺激薬を処方する。 2週間後、咳が明らかに改善していれば咳喘息。

効かなければ、アトピー咳嗽を疑い、抗ヒスタミン薬を追加する。

この順番で、大きく外れることはほとんどありません。

それでも咳が止まらないとき

ここまでやっても改善しない場合は、呼吸器内科に紹介します。

一般内科医として大切なのは、 「咳喘息を見逃さない」こと。

咳喘息の約3割は、気管支喘息へ移行すると言われています。 気管支喘息は、気道が細くなる病気です。 命に関わる疾患です。

だから私は、 咳が続く患者さんを前にしたとき、 常にこの一線を意識しています。

前提・分析・結論

前提: 慢性咳嗽の多くは、急性咳嗽の延長線上で受診する

分析: 急性咳嗽を丁寧に除外した後、咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群の3つを考えれば十分に整理できる

結論: 一般内科医に求められる役割は、咳喘息を見逃さず、適切なタイミングで治療と紹介につなげることにある

秘書ユナのコメント

慢性咳嗽は「診断名当て」ではなく、「危険なラインを越えさせないための判断」です。 咳喘息を見つけて止める。 それができていれば、一般内科医として十分だと、私は考えます。